調査【後半】

文字数 2,577文字

 3人で中央へ向かっていると、枝分かれした比較的細めの廊下に顔見知りの連兵が座っていた。目が合うとこっちに来るかいと言うように自分の横を目で指した。その先は日兵が張っていて行けそうになかったので、その細めの廊下に入った。
あ、ウォンくん達、やけに遅いじゃないか。
 謎の愛称で呼ばれた。そんな呼び方された覚えないぞ。
ちょっと強い奴にひっかかってな。
額にケガか。
 向こうは座っているため逆光で顔が見にくいはずだが、どうやらこいつ―ベーミン―は目が良いらしい。いや、血痕も拭いたからほぼ見えないはずだ。…こいつは謎で満ちているからな…。
このケガもお土産喰らったんだ。
わ、大変でしたな。

こっちはひたすら緊張状態だぜ。

 つまんないったらありゃしない、とベーミンは肩をすくめた。
向こうもけっこう固めてたからな…。
 反対側の壁にもたれながらちらりと中央広間のほうを覗いた。
お、ガイゼリンのお坊ちゃん。

どーもー。

わざわざ癪に障る言い方するな。

…じじい。

じ、じ…
まぁまぁ…。
〈待たせたな連兵諸君。〉
〈おい。〉
〈…おほん。打開策…いや、強攻策に移る。

かつての冷戦並みに静かな戦いの―――…〉

〈低空飛行でマシンガンぶち込む。〉
強行、っつーかそんなことして大丈夫かよ…?
〈南側から撃つ。付近の兵は気を付けろ。〉
音でバレちゃわねぇ?
ベーミンはわざわざ通信をつなげ質問した。
〈逃げた日兵は撃て。〉
ういー
 しばらくした後、国館全体に響くほどの轟音が鳴り始めた。次いで絶え間ない銃声と血の吹き出る音と壁や床をへこませる音と情けない悲痛な叫びが広間を取り巻く。耳をふさぐ気にはならないが、何も感じない程無情ではなかった。だが同情はしない。こっちまで届いてくる光を眺めていた。
こんな間近じゃ迫力が凄まじいな。
 感心するように言った。

 そして1人血塗れの日兵がこちらへ駆けてくるのが見えた。無防備に走ってくるということは、完全に混乱状態なのだろう。

お、裏切りの日兵さんか。

フライパンから火の中へーって、大変だなー。

 カーターは銃を構え上半身を廊下からのぞかせた。

引き金を引く。広間の大音量にかき消されてその銃声は聞き取れなかったが、日兵が穴を空けて倒れたのを見れば撃ったのだと理解できる。

もう少し無駄を無くして撃てないのか。
うっせー!
なかなか出てこないってことは、日兵は国に死せる程忠実な犬が多いってことだな。
…むしろあの中出てこれたほうがすごいだろう。
あんなマシンガン喰らったら即死だろうよ。肉壁でももち切らん。
ジョークさぁ。真面目さんが多いな。
 ヨセフが普段ベーミンを毛嫌いする理由をほのかに感じた気がした。がそれ以上にヨセフの殺意のこもった視線は外から見ててもとんでもなかった。

 そのうち、広間の爆音が収まってゆく。

〈ある程度平面にはしたが、運良く息がある奴がいるかもしれない。気を付けて進め。〉
 その通信の後、外の轟音が止んでいきヘリが遠ざかっていく。
さ、休めた休めた。
と、ついてもいない埃を払いながら立ち上がる。

 自分達も落ち着いた広間へと向かう。いや、さっきの爆音で耳が軽く錯覚を起こしているのかもしれないが。

撃ち殺した日兵の横で足音を鳴らしていく。

そっちはー?
ないです…
ぁったく……、どこだよ…。
…何を探しているんだ?
〈地下室への扉が見つからない…らしい。〉
そこを日兵が守ってたんじゃないのか……?
 広間に一番近い階段から他の兵が降りてくる。
…2階とかは?
首を振った。
上の階から地下に繋がるとこがあんのかね…
全くないとは言えんだろう…。
っっう…
突然広間で地下室を探していたうちの一人が肩を抱える。相当痛んだのか前屈みになった、瞬間。
前屈みになった首から噴出する。
~~~~っは…
その兵士の死亡をかわきりに、次々と広間の中心にいた兵士が貫かれていく。
……上!?
どこからか銃撃!!一旦屋外に避難する!!
〈!! …了解。〉
 動ける兵は一気に屋外へ散った。動ける兵といっても、そもそも既に動けない兵がいないと言っても等しい。上から銃撃されていると気付いた頃には中央にいた連兵は日兵と同化していた。色々な部分が。

 外に出たのち、細かくどこからの銃撃か判断できていないため物陰に隠れた。そこにベーミンがやってくる。自分がしゃがんでいる横に立つ。

なかなか煩わしい物を造るもんだ。
上に人が残ってたのか?
いや。

機械だ。おそらく遠隔操作のな。

 よくあの空気の中そこまで即座に見れて、判断できるものだ。感心する。
〈数十人と連絡がとれない。状況は察する。〉
たしか比較的少人数の作戦だったよなあ。
120程度だ。
んじゃまあ30人ぐらいか。
 さっきの感心を返せ。
他人事すぎる…。
〈C1に調査機を投下する。付近の隊員は設置を依頼する。〉
 ゴーグルに地図を開き現在地点の座標を確認する。

まさにこのあたりがC1らしい。

C1……ったぁこのヘンかよ…。

頑張ってザース。

 他人事に人任せか…。だがやらない理由もないため上空を見て調査機の落下を待つ。調査機もチップなため、視認できるまでに時間がかかる、が液晶も捉えないということはまだなのだろう。

 しばらくすると、液晶が調査機を捉えた。落下しきる前に周囲に警戒しながら液晶が指す落下予測ポイントへ向かう。ポイントへ着くと、ちょうどよく手の高さに落ちてきていた。手のひらでキャッチする。

よくそんな、ちっさいチップで情報集めれるよなぁ。
五感を基に最大まで高めた装置。
説明しながら、自分が出てきた扉の近くの土に指で軽く穴を掘り、その中に調査機(チップ)を入れる。指で軽く掘って横に除けた分の土を再びかぶせる。奥からうっすらと、機能している証の機械音が聞こえたため立ち上がった。
エンジニアかよ
普通に考えりゃわかる。
わーお。
〈…設置完了を確認した。各員回収に向かう。〉
ふい―――…
 とくべつ何かをしていたのは見ていないが、疲れたと言わんばかりに首を回したり腰を叩いたりしていた……年か。
今日(こんにち)の生存に感謝感謝。
そう言いながら回収ポイントへ歩いて行った。自分もポイントへ向かう。

 ふと足を止め、国館を見直す。軽く今回の作戦を振り返る。

収穫は、魔術師との対面・ケガ・守りの謎、か…。とはいえほとんど謎しか収穫していない気がする。これで果たしてまともな成果といえるのか分からないが。

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登場人物紹介

ラギー・ミレイズ(中尉/少佐)

 自由な行動をとり、謙虚な性格。

精鋭部隊の隊長であったが、とある作戦で部下を失ってしまったショックなどで自殺をしようとした。しかし直前に回収に来た兵士によって阻止された。ザースは当時の部下の1人。

 彼女がいた、というがまだ誰かわからない。

ザース・ウォンダーザー(中尉)

 頭が良く正義感が強い。基本冷静な判断をするが、無茶をすることもしばしば。

銃の扱いや常識人さに定評がある。

もともとはラギーらと精鋭を組んでいたが、ラギーが記憶を失ってからは同僚として一緒に行動している。

メデゼン・イラスティア(救護班長)

 どの兵士とも仲がよく、親しい。

熟練の観察眼と馴れた手さばきで多くの兵士を救ってきた。面倒見もいいので、兵士たちの良い相談相手にもなっている。優しいが厳しい面もある。

エナ(動力源)

 日本につかわれていたところを連合軍に保護された。

大人しい性格だが、自分の意思は意外にはっきりしている。

日本にくる以前の記憶がおぼろげらしい。

日本軍では海軍の艦の動力源(昔でいう石油などの代わり)として艦に乗せられていた。〈機器に繋ぐことによって〉

ジュンメス・カーター(少尉)

 少し楽観的な思考をもつ。あまり頭脳派でない。

第六感が鋭く、危機的な状況になると消極的になる。

ヨセフ・ガイゼリン(少尉)

 名家ガイゼリンの長男。本人はガイゼリン家を嫌っている。ベーミンにはそれについて性懲りなく何か言われるので毛嫌いしている。

頭が良く、冷静に物事の判断を行う。周りを冷たく突き放すこともあるが、根本は仲間思い。

ベーミン・ウィリアムズ(大尉)

 常に陽気でよく他人をからかう。ガイゼリン家について少し知っていることがあるらしく、ヨセフによく絡む。

平等な立場を好むため、階位を表に出されるのを苦手とする。

デンジャラスじゃない、とMAの作戦をサボることがよくある。元少佐だったがその休みすぎの影響で落とされた。

佐竹(日本軍兵士)

 常に冷静な判断を下し、上司に忠実。

刀と風を使いこなしている。刀術については上司に習った。

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