3人で中央へ向かっていると、枝分かれした比較的細めの廊下に顔見知りの連兵が座っていた。目が合うとこっちに来るかいと言うように自分の横を目で指した。その先は日兵が張っていて行けそうになかったので、その細めの廊下に入った。
謎の愛称で呼ばれた。そんな呼び方された覚えないぞ。
向こうは座っているため逆光で顔が見にくいはずだが、どうやらこいつ―ベーミン―は目が良いらしい。いや、血痕も拭いたからほぼ見えないはずだ。…こいつは謎で満ちているからな…。
つまんないったらありゃしない、とベーミンは肩をすくめた。
反対側の壁にもたれながらちらりと中央広間のほうを覗いた。
〈…おほん。打開策…いや、強攻策に移る。
かつての冷戦並みに静かな戦いの―――…〉
しばらくした後、国館全体に響くほどの轟音が鳴り始めた。次いで絶え間ない銃声と血の吹き出る音と壁や床をへこませる音と情けない悲痛な叫びが広間を取り巻く。耳をふさぐ気にはならないが、何も感じない程無情ではなかった。だが同情はしない。こっちまで届いてくる光を眺めていた。
感心するように言った。
そして1人血塗れの日兵がこちらへ駆けてくるのが見えた。無防備に走ってくるということは、完全に混乱状態なのだろう。
お、裏切りの日兵さんか。
フライパンから火の中へーって、大変だなー。
カーターは銃を構え上半身を廊下からのぞかせた。
引き金を引く。広間の大音量にかき消されてその銃声は聞き取れなかったが、日兵が穴を空けて倒れたのを見れば撃ったのだと理解できる。
なかなか出てこないってことは、日兵は国に死せる程忠実な犬が多いってことだな。
あんなマシンガン喰らったら即死だろうよ。肉壁でももち切らん。
ヨセフが普段ベーミンを毛嫌いする理由をほのかに感じた気がした。がそれ以上にヨセフの殺意のこもった視線は外から見ててもとんでもなかった。
そのうち、広間の爆音が収まってゆく。
〈ある程度平面にはしたが、運良く息がある奴がいるかもしれない。気を付けて進め。〉
その通信の後、外の轟音が止んでいきヘリが遠ざかっていく。
と、ついてもいない埃を払いながら立ち上がる。
自分達も落ち着いた広間へと向かう。いや、さっきの爆音で耳が軽く錯覚を起こしているのかもしれないが。
撃ち殺した日兵の横で足音を鳴らしていく。
突然広間で地下室を探していたうちの一人が肩を抱える。相当痛んだのか前屈みになった、瞬間。
その兵士の死亡をかわきりに、次々と広間の中心にいた兵士が貫かれていく。
動ける兵は一気に屋外へ散った。動ける兵といっても、そもそも既に動けない兵がいないと言っても等しい。上から銃撃されていると気付いた頃には中央にいた連兵は日兵と同化していた。色々な部分が。
外に出たのち、細かくどこからの銃撃か判断できていないため物陰に隠れた。そこにベーミンがやってくる。自分がしゃがんでいる横に立つ。
よくあの空気の中そこまで即座に見れて、判断できるものだ。感心する。
〈C1に調査機を投下する。付近の隊員は設置を依頼する。〉
ゴーグルに地図を開き現在地点の座標を確認する。
まさにこのあたりがC1らしい。
他人事に人任せか…。だがやらない理由もないため上空を見て調査機の落下を待つ。調査機もチップなため、視認できるまでに時間がかかる、が液晶も捉えないということはまだなのだろう。
しばらくすると、液晶が調査機を捉えた。落下しきる前に周囲に警戒しながら液晶が指す落下予測ポイントへ向かう。ポイントへ着くと、ちょうどよく手の高さに落ちてきていた。手のひらでキャッチする。
説明しながら、自分が出てきた扉の近くの土に指で軽く穴を掘り、その中に調査機(チップ)を入れる。指で軽く掘って横に除けた分の土を再びかぶせる。奥からうっすらと、機能している証の機械音が聞こえたため立ち上がった。
とくべつ何かをしていたのは見ていないが、疲れたと言わんばかりに首を回したり腰を叩いたりしていた……年か。
そう言いながら回収ポイントへ歩いて行った。自分もポイントへ向かう。
ふと足を止め、国館を見直す。軽く今回の作戦を振り返る。
収穫は、魔術師との対面・ケガ・守りの謎、か…。とはいえほとんど謎しか収穫していない気がする。これで果たしてまともな成果といえるのか分からないが。