作戦通達

文字数 1,798文字

 1,000人分近く席のあるユニバーシティのような講堂。前には空中に大きく、ずらりと並んだ文字が映し出されている。その下の長机には年のいった貫禄のある大将が座っていた。手前は1000人ほど座れるが、実際に座っているのは3分の1未満ぐらいだ。

 今には珍しい、アナログの紙の右上をホチキスで束ねてある資料をぱらぱらとめくり、大将はひとつ咳払いをする。

この作戦は、約200年の時を経て再び暴走を始めた日本を抑えるための作戦だ。

我が軍はその作戦の重要な柱を担う。

概容としては、日本が艦の動力源として強制収容及び労働をさせている人物1名の、

そこで間を置き、一際強調させるように言った。
保護だ。
細かな内容は配布した資料に載っている。熟読しておくように。

Mode A(MA)だということは言っておく。武器の点検をしておけ。

 そこまで言い、腕の液晶で時計を確認した。

〈Mode A→非武装作戦〉

ふむ…
と言い、前を見なおす。
時間が余っているようだ。

ある程度の流れを説明、確認しておこう。まずは――…

おいラギー、おいって…
 不意に隣の友人に声を掛けられ現実世界に引き戻される。

 軽く夢を見ていた気がする。いや、頭的にはここに座ってから今座っているまで間の記憶がないため、寝ていたとはいえないのでは?

 とりあえず軽く返事をした。

…ん。
 明らかに寝起きらしい声を出してしまったが、きっと今まで声を出す機会が無かったから喉だけが寝ていたのだ。
…ちゃんと話聞いてんのか…?
 訝しむような表情で聞かれた。不満そうな表情で返す。
きちんと聞いてないように見えるのか?
ラギーの常日頃の行動と、先ほどの座り方からしてな。
常日頃の行動とは、ひどい事を言うな。

まあ――…

 閉じていた資料を軽くめくり、ぱらぱらと数枚ずつ指から抜きながら友人、ザースに向けて肩をすくめてみせる。即座に呆れきったため息を返された。
少しでも頭に入れとけよ…
―――以上。
 大将の語りの締まりに流れて場も締まる。ホールの兵を左から右へと見渡すように首を動かし、自分の手元に視線を戻す。散っていた資料の束を簡潔にまとめ、
何か質問のある者はいるか。
挙手をした。
ミレイズ中尉。
要するに、敵は殲滅しろってことですかね。
 周囲が騒然となった。ザースは物言いたげな表情でラギーを見る。

 大将は一転落ち着いて返答する。

降伏のようすを見せれば注意しつつ拘束し、広間に連れて来い。

敵意を見せれば容赦なく殺せ。

そして――…ミレイズ中尉。

 再び名前を呼び直し注目させる。改めて念を押すように一区切りずつ深めて言う。
人質用ナイフを斬首に使わないように。
 痛いところを突かれたため、隠し切れないほどの苦い顔をした。

 大将はラギーの内心の露見の程に複雑な顔をしながら、戒めの言葉に対する改心の発言を待つ。

 ラギーは前を向きつつ目だけを逸らし言った。

善処します。
虚言を吐いた。

 とはいえ完全な虚言ではない。気持ちとしては嘘をついちゃいないのだ。しかしきっと無理だ。

 反応を確認した大将は質問が終了したと認識し

ほかに質問はあるか。
と周囲に確認する。

 ざわつきを多少残しつつも、挙手する人がいないと判断し、先ほど簡潔にまとめた資料の四隅をそろえ直し、膝裏で椅子を押してそのまま立ち上がった。

なければ解散。

改めて言うが資料を熟読して明日の本番に備えておくように。

そう言うと出入り口の扉へ向かった。

 大将が出たところで一気にホール内がざわついた。その内どこかから自分の名前が聞こえたため、ラギーはその話をなんとなく聞いてみた。

またラギーは殺人のことかよ
嘲笑うような表情で話す。
いつか軍を滅ぼしにかかりそうだな
談笑しながらホールをあとにしていった。

 不意に肩に手を載せられる。素直にそちらを向いた。

…まあ、気にすんなよ。嫉妬ってやつだ。
俺は、軍を滅ぼせるほども、嫉妬されるほども、強くない。
 淡々と返した。

 ザースは苦笑いしながら呆れたように首を振った。

ラギー…は…
とまで言って言葉を止めた。
…いや、そもそも滅ぼす理由がないな。
 ラギーのその発言が謙虚からのものなのか正直な感覚からなのかはザースには判断しかねた。

 そして表情を通常に戻し、話題を変える。

とりあえず、お前ちゃんと話聞いてなかったんなら資料確認しとけよ。
大将と同じようなことを言うんだな
それが大事だからだ。間違えれば死ぬかもしれない、からな。
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登場人物紹介

ラギー・ミレイズ(中尉/少佐)

 自由な行動をとり、謙虚な性格。

精鋭部隊の隊長であったが、とある作戦で部下を失ってしまったショックなどで自殺をしようとした。しかし直前に回収に来た兵士によって阻止された。ザースは当時の部下の1人。

 彼女がいた、というがまだ誰かわからない。

ザース・ウォンダーザー(中尉)

 頭が良く正義感が強い。基本冷静な判断をするが、無茶をすることもしばしば。

銃の扱いや常識人さに定評がある。

もともとはラギーらと精鋭を組んでいたが、ラギーが記憶を失ってからは同僚として一緒に行動している。

メデゼン・イラスティア(救護班長)

 どの兵士とも仲がよく、親しい。

熟練の観察眼と馴れた手さばきで多くの兵士を救ってきた。面倒見もいいので、兵士たちの良い相談相手にもなっている。優しいが厳しい面もある。

エナ(動力源)

 日本につかわれていたところを連合軍に保護された。

大人しい性格だが、自分の意思は意外にはっきりしている。

日本にくる以前の記憶がおぼろげらしい。

日本軍では海軍の艦の動力源(昔でいう石油などの代わり)として艦に乗せられていた。〈機器に繋ぐことによって〉

ジュンメス・カーター(少尉)

 少し楽観的な思考をもつ。あまり頭脳派でない。

第六感が鋭く、危機的な状況になると消極的になる。

ヨセフ・ガイゼリン(少尉)

 名家ガイゼリンの長男。本人はガイゼリン家を嫌っている。ベーミンにはそれについて性懲りなく何か言われるので毛嫌いしている。

頭が良く、冷静に物事の判断を行う。周りを冷たく突き放すこともあるが、根本は仲間思い。

ベーミン・ウィリアムズ(大尉)

 常に陽気でよく他人をからかう。ガイゼリン家について少し知っていることがあるらしく、ヨセフによく絡む。

平等な立場を好むため、階位を表に出されるのを苦手とする。

デンジャラスじゃない、とMAの作戦をサボることがよくある。元少佐だったがその休みすぎの影響で落とされた。

佐竹(日本軍兵士)

 常に冷静な判断を下し、上司に忠実。

刀と風を使いこなしている。刀術については上司に習った。

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