はじめに ~ル=グウィンさんの思い出、例のアニメに関してなど~

文字数 1,456文字

 アーシュラ・K・ル=グウィンという作家を、ご存じでしょうか。

「知らない」というかたは、このページをきっかけに、知っていただけたら嬉しいです。

「知ってる、『ゲド戦記』の原作者でしょ」と言うあなた、
 ええ、そうなんですけど、ほんとはね、この『闇の左手』こそが彼女の代表作なんです。
 やはりこのページをきっかけに、知っていただけたら嬉しいです。

「ああ、ジ○リのアニメの」と言いかけたあなた……!
 ル=グウィンファンのあいだでは、その社名は、禁句です。笑
 2012年、生前のル=グウィンさんにお会いしたとき、彼女は
「そうねえ、あのアニメーションは、私の小説の登場人物たちを使った、私のぜんぜん知らないお話だったわ」
と、にこにこしておっしゃっていました。

「あれ(映像)はまだうちの地下室にあるよ」と、彼女の隣りで、ご主人のチャールズさん。
「そう?」とアーシュラさん。「私すっかり忘れてた」
「見てくる」椅子から立ち上がるチャールズさん。
「やめなさいよ」笑いながらアーシュラさん。「血圧上がっちゃうわよ。私は行かないわ」
「僕が見てくる」
「やめればいいのに」
 チャールズさんが出ていった後も、アーシュラさんはずっと笑っておられました。

 彼女はとても小柄なかたで、初めてお会いしたとき、私はびっくりしてしまいました。
 私は身長165cmなのですが、ハグしたら、彼女のおつむが私のあごの下にすっぽりおさまってしまったんです。ええー?!
 私の中では「偉大!!」というイメージしかなくて、脳内ではいつも勝手にスフィンクスくらいの(笑)仰ぎ見る感じでいたので、こんな可愛いかたなの? とめちゃくちゃ驚きました。
 そしてほんとにいつも笑顔で、優しくて、軽やかでキュートなのです。

 率直な、歯に衣着せない発言も多いため、日本での翻訳書には、なんだかやたらに偉そうで乱暴な言葉づかいで訳されているものもあり……ファンとしては胸が痛みます。
 そうじゃなくて、ル=グウィンさんは、たんに正直なだけなのです。
 権威や何や、そういうのを、ちっとも怖がらないだけなのです。

 つい現在形で語ってしまいますね。
 彼女の文章が読まれつづけるかぎり、彼女はいまも生きていると、たしかな安心を私はおぼえます。
 もう二度と地上ではお会いできないという、痛みとともに。

 前置きが長くなりました。
 この連載は、そんな彼女の代表作『闇の左手』を、
 いまもっとも読まれるべき小説の一つとして、私ミムラが勝手に激推しする(笑)コーナーです。

 まず、世界観が凄い。
 舞台はさいはての星、ゲセン。一年のほとんどを氷と吹雪に閉ざされた極寒の世界です。
 そこに住む住人達は、なんと全員が両性具有。
 詳しくは第七章「性の問題」をお読みください(この連載の「資料室」のコーナーに置いてあります)。
 そして、登場人物が素敵。
 二人の主人公は、ともに命を賭けます。一人は全宇宙のために。もう一人は、その友人のために。
 これがいま日本でバズらない理由が私にはわかりません。
 いえ、わかってるんですが、どうしても納得できません。
 たった一つのハードル、それは……

 翻訳です。

 言っちゃったよ。

 いまあるハ○カワ訳の熱狂的なファンの方々から、お叱りを受ける覚悟で申しますと、
 (小声で)もう少し、読みやすい日本語だったらなあと思うのです。
 (さらに小声で)せめて1ページに2カ所のペースで誤訳があったりしなければなあと……!

 ……!! ←もだえている

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