【報告書】性の問題(4)(原作第七章)

文字数 1,331文字

 私の仮説に戻るが、このような実験(実験だったとして)が行なわれた動機を考えるにあたって、われわれの祖先ハイン人たちの暴虐の罪、生命を物のようにあつかった罪を晴らせたらという思いから、ハイン人たちの求めていたものについていくつか推測を行なってみた。

 ソマー/ケマー周期は、退化、下等哺乳動物の発情期への回帰、《さかり》のメカニズムの命令に服従してしまうことという印象を与える。実験者は、恒常的な性能力を持たない人間が知性を、文明を保ち得るかを見てみたかったのではないだろうか。
 一方、性衝動が限られた時間内に制限されており、両性具有として男女の双方に平等に与えられていることは、性衝動の乱用と欲求不満を大いに防いでいるにちがいない。性的欲求不満はたしかにあろうけれども、少なくとも鬱積(うっせき)はしない(欲求不満に対するできるかぎりの備えが社会にはある。ケマーに入る人間が同時に複数いるほどの大きさの共同体であれば、性の充足はかなり確実にもたらされる)。ケマーが終われば欲求不満も消える。すばらしい。こうして彼らは多くの浪費と狂気をまぬがれている。だがソマー期には何が残されているのか? 昇華すべきものがあるか? 宦官の社会は何を達成し得るか?――もっともソマー期のゲセン人は宦官ではない、むしろ思春期前の若者に近い。去勢体ではなく潜在体なのだから。

 実験目的についてのもう一つの推測――戦争の排除。
 古代ハイン人は、不断の性交能力と組織化された社会的攻撃性(いずれも人類以外の哺乳類には見られない)には、因果関係があると考えたのではないか? あるいは、トゥマス・ソング・アンゴットの言うように、彼らも戦争をたんなる男性性の排出行為、大規模な強姦と見なし、それゆえ、強姦したいという男性的欲求、強姦されたいという女性的欲求を除去しようと試みたのではないか? 神のみぞ知るである。
 確かなのは、ゲセン人はきわめて競争心旺盛(格式をめぐる争いなどのために念の入った社会的回路があることからも明らかだ)でありながら、それほど攻撃的ではないらしいということだ。少なくとも彼らの歴史にはいまだかつて戦争と呼びうるものがない。単独や少人数での殺しあいは少なくないが、十人、二十人単位となると稀で、百人千人は皆無だ。なぜか?

 これは両性具有の心理と何のかかわりもないかもしれない。そもそもゲセン人は総人口も多くない。それに、この気候だ。惑星《冬》の気候はあまりに苛烈で、寒さに適応性をもった彼らでも忍耐の限度のぎりぎりなほどだから、寒さと戦うことで闘争心を使い果たしてしまうのかもしれない。生存の限界で生きている周縁の民は、めったに戦士にはならないものだ。つまるところ、ゲセン人の生活で圧倒的な位置を占めているのは、性やその他の人間的な要因ではなく、環境、極寒の世界なのだ。ここには人間より苛酷な敵がいる。

 私は平和なチフウォー出身の女で、暴力の魅力や戦争の特質についての専門家ではない。この問題は誰か他の人に考えてもらいたい。しかし、惑星《冬》の冬を体験し、大氷原の相貌を目のあたりにしてしまったら、もはや勝利だの栄光だのを重んじる気力など、誰にも残らないのではないだろうかとは思う。

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