【調査レポート】性の問題(2)(原作第七章)

文字数 1,337文字

 社会的観察:今のところ非常に表面的。一貫した社会的特徴をとらえるには広範囲を回りすぎたようだ。

 ケマーはいつもカップルで行なうわけではない。カップルがもっとも一般的な習慣のようだが、町のケマー・ハウスでは複数の男性と複数の女性の問で無差別に性交が行なわれる。この対極にあるのがケマーの誓い(カーハイド語でオスキョマー)で、事実上の一夫一婦制だ。法的資格をともなうものではないが、社会的倫理的には古来さかんな風習である。カーハイドの《家》と郡の全機構は、かならずこの一夫一婦制度を基盤としている。離婚が一般にどうとらえられているかについては不明。ここオスノリナーには離婚はあるが、離婚後あるいはパートナーの死後、再婚はしない。ケマーの誓いは生涯一度きりのものなのだ。

 ゲセン全土において家系はむろん母親、つまり《生みの親》(カーハイド語でアムハ)から受けつがれる。

 近親相姦は、さまざまな制限はあるものの、きょうだいのあいだでは許されている。ケマーの誓いを立てたカップルを親とする子ども同士でも可能だ。だがきょうだいのあいだではケマーの誓いは許されないし、そのカップルのどちらかに子どもが生まれれば別れなくてはならない。親子の性関係は厳禁されている(カーハイドとオーゴレインではそうだ。南極大陸のペルンターの現地民のあいだでは許されていると聞いたが、一種の誹謗中傷かもしれない)。

 ほかに確かな事実としてわかったことは? このあたりでまとめてみよう。

 この特異な生態には、環境に適応するに有利と思われる特徴がひとつある。交接が受胎能力のある期間にのみ行なわれるため妊娠の確率は高く、これは発情期を有するすべての哺乳動物と共通する。幼児死亡率の高い厳しい環境下では、種族保存に重きが置かれることを示唆している。現在ゲセンの文明化された地域では、幼児死亡率も出生率も高くはない。ティニボソルは三大陸あわせての全人口を一億たらずと推定し、少なくとも過去千年はこの数は安定していると考えている。しきたりや倫理に要請される堕胎や避妊薬の使用が、この人口の安定をもたらす主な要因となっているように見受けられる。

 両性具有のいくつかの局面については、われわれはわずかに垣間見たり憶測したりしただけで、けっきょく完全に把握することはできないのかもしれない。ケマー現象はわれわれ調査員全員を魅了したが、ゲセン人は魅了どころか、ことごとくケマーに制御され支配されている。彼らの社会構造、工業・農業・商業のあり方、居住地の規模、物語の主題、すべてがソマー/ケマー周期に沿うよう形づくられている。

 誰にも月に一度の休暇がある。どのような地位にあろうと、ケマー期間中は働かなくてよい。貧乏人であろうとよそ者であろうと、ケマー・ハウスに入れてもらえる。毎月めぐってくる愛の拷問と祝祭は、何ものにも優先する。これはわれわれにも容易に理解できる。だが理解しがたいのは、残りの五分の四の期間は、まったく性的欲望を感じることがないということだ。セックスは生活の中で大きな場所を与えられているのだが、しかしそれは、いわば隔離されたスペースだ。ゲセンの社会には、日々機能し継続していく上では、性の要素は皆無である。
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