【ゲンリーの手記】(抜粋1)(原作第一章冒頭)

文字数 597文字

 僕はこの報告書を、ひとつの物語として記そうと思う。幼いころ故郷の星で僕は教わったものだ、真実とは畢竟(ひっきょう)、想像力の問題であると。まっとうな事実であっても、そう受けとられるかどうかは語られかたによる。ちょうど、僕らの海から生まれるあの唯一の有機質の宝石が、あるひとの肌の上では輝きを増し、別のひとがまとえば色も光沢(つや)も失ってしまうのと同じだ。真実は真珠ほどにも堅くなく、丸くもなく、どこから見ても同じ姿でしっかりとそこに在りはしない。ただ、両者に共通するのは、どちらも傷つきやすいということだ。

 この物語は僕ひとりのものではなく、語るのも僕ひとりではない。僕には誰の物語とも言いきれない。判断は読者であるあなたにまかせたい。それでも全体でひとつの物語なのだから、語り手によって話が異なるように思えたら、そのときは好きなほうを選んでほしい。どれも嘘ではない。ひっくるめてひとつの物語なのだ。

 物語はエキュメン暦1491年の44日にはじまる。惑星《冬》のカーハイド王国の暦ではオダーラハッド・トゥーワ、すなわち一の年の春、第三の月の二十二の日だった。ここでは暦はつねに「一の年」だ。元旦にあらゆる過去と未来の日付がいっせいに変わり、不変の《今》から来し方行く末を数えなおすだけなのだ。だから、カーハイドの首都アーヘンラングでは一の年の春で、僕は生命の危機にさらされていて、しかもそれに気づいていなかった。

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