第25話

文字数 929文字

それから花火大会までの二週間はまるで時間が遅くなっているのかと思うくらい、全然前に進んでいないように感じた。
そんな止まった時計のような時間を早く進めたくて、健一や雄馬とプールに行ったりゲームをしたり、一人の時は図書館で勉強したりしてできるだけ予定を詰め込むことに専念したが、それでも焼け石に水。
図書館でたまたま顔を合わせた木下さんから町内の夏祭りに誘われた時も、心ここにあらずで承諾してしまいしまった、と思ったが嬉しそうだったのでまぁ、いいかと思った。
上手くいけば女子の浴衣のコーディネイトも勉強できるし、木下さんは山辺先生と良くしゃべっているから先生との距離を学校でより詰められる切っ掛けになってくれるかも知れない。そして、私自身が先生に花火大会を断られそうになったときの、悲しさを覚えていた事もあった。
木下さんにそんな思いをさせるのも忍びなかったのだ。
夏祭りがどんな風だったか覚えていなかったけど、私も男子としてできるだけサービスし、木下さんも終始楽しそうだったので、まずまず成功したと思えた。
そんな中で浴衣をレンタルし、アクセサリーを選んでいるときが最高に楽しかった。
この時だけ、目に映る物がまるでモノクロから極彩色に変わったように見えた。
そして前日になって、先生とラインで明日の打ち合わせをした。
先生が車で私の自宅近くのコンビニに迎えに来てくれて、一旦先生のアパートに行く。
そこで浴衣に着替えてから、電車で現地へ。
やり取りしながらニヤニヤするのをもう押さえることが出来なかった。
それどころか何度もクスクスと笑いが漏れてしまうほどだった。
先生のアパートへ。
嘘でしょ。
確かに浴衣に着替えるのはいつものように公園のお手洗いで、と言う訳にはいかないし自宅でそれを行うわけには行かない。
どうしようかとは思っていて、カラオケボックスで着替えるしかないか、と考えてたがまさか先生からそんな提案をしてくれるなんて。
本当に誠実な人なんだな。
このまま死んでしまうのでは、と思うほどドキドキして体が熱い。
最高の私を見せよう。
その自信はある。
最初は花火大会を一生の思い出に、などとしおらしく思ってたけどやっぱり欲が出てくる。
ぜひともこれからもっと仲を深める切っ掛けにしたい。
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