第33話

文字数 1,323文字

出校日の学校はなんでこんなに他人行儀なんだろう。
建物もグラウンドも廊下や教室も全部が他人行儀。
まるで親族の集まりの時の両親みたい。
そんな事をのんきに考えながら私は机に座っていた。
3日前の花火大会。
私はあの日の余韻にまだ浸っていた。
「夢のような時間」
手垢が付きすぎた言葉だけど、そうとしか言えない日だった。
あのとき、花火を見ながらたまらなく悲しくなった私に、先生は優しく肩を抱いてくれた。
驚く私に先生は「大丈夫だ。僕がついてる。ゆっくり進んでいこう」と言ってくれた。
はい。私はゆっくり進んでいきます。
あなたの後に着いて。
私には先生・・・山辺さんがついている。一緒に進もうと言ってくれた。
あの日、あの花火、先生の言葉。
私の全てを包んでくれる。
「おい、昭乃。おい!」
その甘美な心地よさに浸っていた私の耳に、急に飛び込んだ声に驚いて振り向いた。
声の主は健一だった。
「さっきから呼んでるだろ。大丈夫かお前?」
「あ、ゴメン。大丈夫大丈夫。ちょっと夏バテかも」
「勘弁してくれよ、カラオケには体力残しといてくれよ」
「分かってる。それはバッチリだから」
今日の出校日は半日なので、その後健一と雄馬、木下さんとその友達二人の6人でカラオケに行く約束をしていた。
健一はかなり楽しみにしているようで、昨日も30分くらいラインでそのことをやり取りしてたので、正直この話題は辟易していた。
「これって合コンってやつだよな?俺たちって進んでるよな」
にやつきながら言う健一に思わず苦笑いが出る。
「相手はどう思ってるか分からないぞ。ホントにカラオケのつもりかも知れないし」
「さすがに他のクラスの奴と単なるカラオケしないだろ?この夏で念願の彼女を作れるかも。だから頼むよ昭乃。今日はおとなしくしといてくれよ」
「分かってるよ。言われなくても適当に過ごしとくから」
「サンキュ。彼女出来たら花火大会行きたいんだよな」
その言葉に胸が心地よく跳ねる。
先生の顔が浮かんだ。
もうすぐ授業開始。先生は今朝はどんな感じかな?
って、いつも通りか。あの人はお仕事に熱心だから。
でも、たまに疲れてるように見えるのは心配だな。
今度、クッキーとか甘い物でも差し入れしようかな・・・
「って言うか、相手の子の事なんも知らないんだろ?しゃべれるの?お前」
雄馬がけだるそうに言う。
「そんなん合コンなら当たり前だろ。事前情報バッチリ集めて望むなんて聞いたこと無いぜ。なぁ昭乃」
「そうだね。分からないからこの時間も楽しくなるのかも。まず歌は健一から歌えよ。お前歌上手いから一発で行けるかもよ?」
「まじか!サンキュ昭乃。ホントに協力してくれるんだな」
「当然。頑張ろうよ。なぁ雄馬?」
「協力はするよ。ただはしゃぎすぎるなよ」
「分かってるから。毎回親父みたいな事言うなよ。って言うか雄馬は誰か狙ってる子は居るのか」
健一の言葉に雄馬は軽くため息をついた。
「別に。昭乃もだろ?」
急に振られたので驚いたが、反射的に頷いた。
何で分かるんだろう?
「な?だから俺と昭乃はお前の邪魔はしない。好きなようにやれよ」
「お前らはやっぱり最高の友達だ!じゃあ放課後の打ち合わせを・・って、もう来たのかよ」
健一が恨めしそうに入り口を見る。
先生が来たらしい。
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