第50話

文字数 1,426文字

夏の終わりはどうしてこんなに寂しくなるんだろう。
物心ついたときからそう感じていて、ずっと不思議に思っていた。
暑すぎる気温が落ち着き、涼しく心地よい気温になる。
周囲の草木の様子が変わる。
ただ、それだけなのにどうして。
そんな寂しさのせいか、私は秋が嫌いだった。
夏の間、山辺さんを苦しめてきた清水先生との関係についての口さがない話しは今ではすっかり落ち着いている。
元々、倫理的にもそこまで問題があるわけでは無く、所謂ワイドショーのゴシップの小粒版程度の事だったことに加え、清水先生にたぶらかされた被害者だ、と言う書き込みが出てくるようになり、それも追い風になってやがて生徒もその問題に飽きるようになっていた。
もっともその書き込みをしたのは私なのだけど。
清水先生が万一見ていたら、と言う恐怖感はあったけど私自身のまいた種によって苦しむ山辺さんを見ているのは拷問のように苦痛だった。
それから解放されるなら、と言うやけくそな思いもあったが結果的にあれから何も無く日々は過ぎている。
私と山辺さんは今も毎週末に一緒に公園を走っている。
朝、山辺さんのアパートでエクステと化粧をし、一緒に走った後あの人のアパートに行って一緒に過ごす。
山辺さんの強い希望であの夜のような事はしなくなったが、キスや抱き合ってお互いの温もりを感じる時間は持っている。
あれから髪も伸ばし始めた。
男性だからと言って必ず短くしないと行けない事も無いな、と思ったのだ。
何より、絶えず可愛くなる私をあの人に見てもらいたい。
だが、思わぬ副産物として以前よりさらに女子に声をかけられるのには参ったけど・・・
あの夜のように、狂気の混じった欲望は影を潜めたけど、やっぱり山辺さんと深い繋がりを得たいという気持ちは変わらない。
でも、それ以上にあの人に愛してもらいたい。
今は、山辺さんも私と言うときにしか見せない表情を沢山見せてくれている。
笑った顔も可愛いし、冗談を言ってくれたりもする。
好きなラーメン屋にも連れて行ってくれるし、夢中になっているテレビゲームに誘ってくれたり。
それらは学校で見せる真摯な教師の姿とは異なる一人の若い男性の姿であり、それを見せているのは学校では間違いなく私だけなんだろう、と言う事実は染み渡るような幸せと優越感を感じさせてくれる。
それに、遅ればせながらだけどやっぱりあの人の前では一人の少女で居たい。
健一や雄馬との付き合いも放課後を中心に続いていた。
山辺さんが「友達は大切にして欲しい」と言ってくれたこともあり、私も余裕を持てるようになった。
以前のように必死になって山辺さんの愛をつかみ取ろうとする必要が無くなったのかも、と思えるほど彼との関係に安心感を得られるようになったことが一番の理由かも知れない。
そのため、放課後は健一の部活がない日は二人とカラオケに行ったり誰かの家でゲームをしたりしている。
健一の居ないときは雄馬と二人で。
だが、そんなある日。
授業が終わった後、健一が部活のためいつものように雄馬と二人で帰りにどこかに寄ろうか、と思っていると、雄馬がポツリと公園に行きたい、と言った。
公園?
中学生の男子二人が行くところでは無いので、キョトンとして聞き返したけど、雄馬は変わらず同じ事を言った。
「公園はいいけど、どこの?」
「そうだな・・・滝の口公園とかどうかな」
「滝の口公園・・・懐かしいな」
小さい頃、雄馬と健一と三人で良く遊んだ公園。
嬉しくなって私も頷き、二人で公園に向かった。
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