第24話 布団 Bed
文字数 1,299文字
出来るだけのことはおこなった。後はダビデ王の騎士団が来るまで、カミーラが攻撃に来ないことを祈るだけだ。全ての警備強化を指示し終えた後、ゲーテは頭を抱え、布団に丸まり、震えていた。
困った時には、いつもニーチェがいた。だが、今は誰にも頼ることができない。自分の弱さを知ったゲーテは、もう、幹部として、団員たちの目に晒されることが耐えられなかった。
ーー期待に応えたい。だがもう、応えることができない。
どのくらい時間が経っただろう。
ココココ。
小さくドアを叩く音がする。
ーー去ってくれ。去ってくれ。俺は、威厳のある態度を取ることができない。この姿を見せたくない。誰もいないと思って、立ち去ってくれ。
静かだ。反応がない。
が、しばらくして、ゆっくりと部屋の扉が開いた。リボンのついたカチューシャをつけた若い女性。クリスティアーネだ。
クリスティアーネは部屋の中を見回し、大きな体を縮こめて震えているゲーテを見つけた。
「ゲーテ」所長であるゲーテが働かなければ、研究所の業務に支障がでる。
仕事ができるといわれる人間には、二つのタイプがある。一つは、自分がいなくても動くシステムを作る人。もう一つは、自分がいないと全てが止まるシステムを作る人だ。自分の存在を常に意識させたいゲーテは、後者のタイプの人間だった。
クリスティアーネは、他の団員に言われてゲーテを引き摺り出そうとしたが、ゲーテの様子を見て、敏感に状況の異常さを感じ取った。
「どうしたの?」いつも以上に優しくする。
「怖い。怖いんだ」布団が震えている。
クリスティアーネは布団越しに、ゲーテの背中を摩った。
「大丈夫。大丈夫よ、ゲーテ」
ゲーテは大きな犬のように、徐々にクリスティアーネに甘えていく。普段は絶対に見られない行動だ。
ーーあら、かわいい。厳格なゲーテにもこんな一面があるのね。
クリスティアーネは頭を撫でた。いつもは体の大きいゲーテのことを怖いと感じているが、こうなると古くからの同期でもあり、親友でもある。ゲーテが自分に好意を寄せていることも分かっている。
「君しか、君しかいないんだ」
クリスティアーネは、頭を撫でながら優しく聞いた。
「分かったわ。どうしたの? 言ってごらんなさい」
クリスティアーネは、自分がお姉さんになった気がした。
次の一言を聞くまでは。
「ニーチェが、ニーチェが……」
ーーえっ!
嫌な予感がする。
「……殺された」
血の気が引くとは、こういうことを言うのだろう。クリスティアーネは、カミーラに血を吸われたわけでもないのに、一気に貧血に陥って倒れた。
どうしようもない不安を抱えた者同士。
気づいた時、クリスティアーネは、ゲーテに抱かれていた。
二日間、二人は、ベッドの中で、お互いを求め合って過ごした。ニーチェとの思い出の残り香を嗅ぎ合い、何度も何度もお互いを抱きしめ、自分自身を慰め合った。二人の様子を伺いに来る者は誰もいなかった。今まで第一研究所の団員のために粉骨砕身してくれたゲーテが、いずれ復活すると信じて疑っていなかったからだ。いない間も団員たちは、必死で、ゲーテが戻ってくるまでの業務をこなしていた。
困った時には、いつもニーチェがいた。だが、今は誰にも頼ることができない。自分の弱さを知ったゲーテは、もう、幹部として、団員たちの目に晒されることが耐えられなかった。
ーー期待に応えたい。だがもう、応えることができない。
どのくらい時間が経っただろう。
ココココ。
小さくドアを叩く音がする。
ーー去ってくれ。去ってくれ。俺は、威厳のある態度を取ることができない。この姿を見せたくない。誰もいないと思って、立ち去ってくれ。
静かだ。反応がない。
が、しばらくして、ゆっくりと部屋の扉が開いた。リボンのついたカチューシャをつけた若い女性。クリスティアーネだ。
クリスティアーネは部屋の中を見回し、大きな体を縮こめて震えているゲーテを見つけた。
「ゲーテ」所長であるゲーテが働かなければ、研究所の業務に支障がでる。
仕事ができるといわれる人間には、二つのタイプがある。一つは、自分がいなくても動くシステムを作る人。もう一つは、自分がいないと全てが止まるシステムを作る人だ。自分の存在を常に意識させたいゲーテは、後者のタイプの人間だった。
クリスティアーネは、他の団員に言われてゲーテを引き摺り出そうとしたが、ゲーテの様子を見て、敏感に状況の異常さを感じ取った。
「どうしたの?」いつも以上に優しくする。
「怖い。怖いんだ」布団が震えている。
クリスティアーネは布団越しに、ゲーテの背中を摩った。
「大丈夫。大丈夫よ、ゲーテ」
ゲーテは大きな犬のように、徐々にクリスティアーネに甘えていく。普段は絶対に見られない行動だ。
ーーあら、かわいい。厳格なゲーテにもこんな一面があるのね。
クリスティアーネは頭を撫でた。いつもは体の大きいゲーテのことを怖いと感じているが、こうなると古くからの同期でもあり、親友でもある。ゲーテが自分に好意を寄せていることも分かっている。
「君しか、君しかいないんだ」
クリスティアーネは、頭を撫でながら優しく聞いた。
「分かったわ。どうしたの? 言ってごらんなさい」
クリスティアーネは、自分がお姉さんになった気がした。
次の一言を聞くまでは。
「ニーチェが、ニーチェが……」
ーーえっ!
嫌な予感がする。
「……殺された」
血の気が引くとは、こういうことを言うのだろう。クリスティアーネは、カミーラに血を吸われたわけでもないのに、一気に貧血に陥って倒れた。
どうしようもない不安を抱えた者同士。
気づいた時、クリスティアーネは、ゲーテに抱かれていた。
二日間、二人は、ベッドの中で、お互いを求め合って過ごした。ニーチェとの思い出の残り香を嗅ぎ合い、何度も何度もお互いを抱きしめ、自分自身を慰め合った。二人の様子を伺いに来る者は誰もいなかった。今まで第一研究所の団員のために粉骨砕身してくれたゲーテが、いずれ復活すると信じて疑っていなかったからだ。いない間も団員たちは、必死で、ゲーテが戻ってくるまでの業務をこなしていた。