第33話 大発明 Great Invention

文字数 893文字

 一ヶ月後、本部にこんな手紙が届いた。
『私、先日、世紀の大発明をいたしました。
 三日後の正午、本部に向かいます。
 幹部の皆様、ぜひお集まりの上、御照覧くださいませ。
             第一研究所所長 ニーチェ・フラテルニタティス』
ーー三日後か。
 ゲーテは三日後、第六研究所に向かわなければいけない用事があった。資金援助に関わることだ。どうしても、威厳があって弁の立つゲーテ自らが行かなければならない。
ーーしかし正午ならば。
 ニーチェが来てから出発しても間に合う。ゲーテは、ニーチェと一目会ってから出発しようと考えた。
 正午過ぎ、一台の馬車がやってきた。
ーー御者は美しい女性か。クリスティアーネと面影が似ている。
 雪の光に反射してよく見えないが、肌が白い。
 門の前で出迎える。
 馬車は、ゲーテの目の前で止まった。
「やあ。友よ」
ーー男?
 女性だと思っていた御者は、ニーチェだった。
 ゲーテは目を疑った。
 死にかけていた一ヶ月前とは違う。健康そのものだ。昔から中性的だったが、今はどちらかというと女性的だ。神々しい。あんなに冷静だった目が、爛々と輝いている。気力に満ち溢れている。こんなニーチェを見たのは三年ぶりだ。
「おう。元気そうだな」ゲーテはガッチリと握手を交わし、ニーチェが馬車から降りるのを手伝った。
「世紀の発明をしたんだって?」
「ああ。この中に入ってる」ニーチェは、馬車の荷台を指差した。
「何を作ったんだ?」
「ダメダメ。それはお披露目の時のお楽しみだな。きっとゲーテは喜ぶと思うよ」
「そうか。お前が言うなんてよほどのものなんだろうな」
 ニーチェは、満面の笑みで返した。
「ゲーテ。君はいつ帰ってくるんだい?」
「そうだな。スケジュール通り行けば、一週間後だな」
「じゃあ、その日にお披露目するとしよう。戻る時間が分かったら連絡をくれ」
「分かった」
 ゲーテは確信した。
ーー蕾は膨らんだ。あとは、花が咲くだけだ。
 この時の二人の会話は、一見、親友そのものだった。しかし、心の中を見通せる人が見ていたなら、その光景は、この冬の気温よりも寒かっただろう。 
 ゲーテは、いよいよ覚悟を決めた。
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登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

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