第28話 突入(2) Rush in

文字数 1,537文字

 しかし、ゲーテには疑問があった。
「なぜ、MAを使わないのですか?」モード・アルキメスト。物理的なリアルの攻撃を跳ね除ける鎧をまとえば、そもそも銃弾をかわさなくてもすむ。
「ああ」スカラーは、疑問に思うだろうという顔をして続けた。
「今回の依頼、俺たちは、隊長から、MAの使用を禁止されているんだ」
「なぜですか?」
ーーMAを酷使すると、PSが摩耗するとか?
 そんな話は聞いたことがない。
 スカラーは、苦笑して答えた。
「疑問に思うよな。でもリンリンは、簡単な任務にMAを使用していては、避けることや探知することを億劫がって、動きや勘が鈍くなると言うんだよ」
「でも、それで死んでしまっては……」
「今回は簡単な任務だし、ドクター・プリンスがいる。即死でない限りは、治してもらえるからだろうな」
 ゲーテは、自分たちの錬金術レベルとは差がありすぎるという事実を知って、愕然となった。

 カミーラは、尖塔へと続く螺旋階段を登っていく。ニーチェが落下した、あの螺旋階段だ。
ーーもう、地面にシミはついていない、か。
 ゲーテは、あの時のことを思い出しながら階段を登っていった。
ーー俺が錬金術の奥深さをあの時に知っていたら、ニーチェをむざむざ死に至らしめることもなかったな。
 ニーチェは贔屓目なしに天才だった。だが、錬金術の頂点を見たことがなかった。それだけが、彼の成長を阻害していた。
 一歩一歩、自分の思いを踏み締める。
 頂上で、大きな声がした。
「やったー。俺が一番だー!」
「チッ。しゃーねーな」戦闘をしている雰囲気ではない。ワラワラと人が移動している。
 二十秒ほど遅れて、ゲーテも、スカラーと共に、最上階へとたどり着いた。
 部屋は円形で、大きさは三十畳程度。広いのに殺風景で、ベッドと机しか置いていない。
ーー前回は到達できなかった部屋。ここでニーチェは、カミーラと争い、そして、死んだ。
 ゲーテは、こんなにもあっさりとこの部屋にいることが、どこか信じられなかった。
 目の前では、どこかニーチェを思わせる男、カトゥーが、カミーラと対峙している。他の四人は見物だ。一対一の勝負。これもリンリンの修行の一環なのだろうか。
 ホー。
 ホー。
 あい変わらず、フクロウは鳴いている。
 いよいよ決戦だ。
 嬉しそうな顔のカトゥーは、石のナイフにオーラを込めた。AS、オーラソードだ。非現実を切り裂くことができる。
 軽いステップワークでカミーラの周りを回る。
 と、カトゥーが、素っ頓狂な顔をして立ち止まった。
「あっれー?」
「どうした?」スカラーが声を掛ける。
「この子、もう弱ってるよ」カトゥーが指差した瞬間、カミーラがカトゥーに襲いかかった。
 カトゥーは素早く避け、同時に、ナイフの柄で、カミーラの首の後ろを叩く。
 カミーラはうつ伏せに倒れた。
 そのまま立ち上がらない。
 ただ震え、うめき声をあげている。
「アンリー」カトゥーが呼ぶと、アンリーが金髪を靡かせて、カミーラを触診し始めた。
 少し経ち、アンリーが顔を上げる。
「これは珍しい。彼女は、毒を射たれています」
「毒?」
「ええ。普通アルカディアンは、病気関係には一切かかりません。なぜなら、アルカディアンを創造する人の多くは、キャラクターも病気になるということを想像しないからです。けれども、この毒は特別です。アルカディアンだけに効果がある毒のようですね」
「Fってことか?」
「ええ。けれども、オウルキャンセルにかからないということは、この毒自体がFというわけではないようです。リンリンさんのお札と同じように、Fによって作られた毒なのでしょう」
「治す方法はあるのか?」
「このFを行使した本人ならばあるいは」
 カミーラは地面に伏したまま、苦しそうにうめき声をあげている。
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登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

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