第37話 ラインの黄金(2) Ruin of Za Gold
文字数 1,607文字
「そういえばゲーテ」カトゥーは気さくだ。
「オポポニーチェの演説を聞いたかい?」
「演説?」
「聞いてないの? やっぱなー。時間的にそうだと思ったんだ」そういえば、今は夕方だ。昨日から丸一日は倒れていたことになる。
カトゥーは、奥の荷物箱から鳥籠を取り出した。
「ほらこれ。オポポニーチェの声が入ってるよ」鳥籠のカバーを外す。鳥籠から、ニーチェの声が聞こえ始めた。
『諸君。これは戦争だ。黄金の落日は始まった。神々の黄昏まで後三日。それまでに私を止めなければ、君たちの人生は終わりを告げる。恐れ慄き、私に挑戦せよ。四日日の日が落ちた時、私は無敵になる。以降、全ての団員を殺し尽くすことにしよう。逃げも隠れもしない。私は、シェリダン・レ・ファニュ城にて貴方がたを待ち受ける。心してかかってきなさい。オーッポッポッポッポ』
『諸君……』ニーチェの演説が繰り返される。カトゥーは、鳥籠にカバーをかけた。
「という訳さ。さて、どうする?」
「あいつが来いと言うのなら決まってる。古城に向かってくれ」
「そう言うと思っていたよ」カトゥーはあっけらかんとしていた。
「お前が眠っていた間の経緯について教えてやろう」運転をしているスカラーが太い声で伝える。
「お前が倒れた後、ニーチェは副団長の緊急警報を使用して、この演説を全団員に伝えた。GRCは混乱している。本部の壊滅を確認した後、主要部隊が集まって、緊急会議を開いた。その結果、ニーチェをGRCから脱退させ、オポポニーチェと改名することで、敵だという立場を全団員に知らしめた。穢れた薔薇、という異名もつけた。そして同時に、私たちKOKを呼んだんだ」
GRCに呼ばれてからでは、ニーチェの演説を録音できないはずだ。
「なぜカトゥーは、演説を録音できたんだ?」
「そりゃ、ニーベルングの指環の発動にタグ付けしておいたからだよ」
「タグ付け?」
「ほら。俺らって、危険なFを管理する組織じゃん? Sランク以上のFには、いつも注意を払ってるんだよ。それが発動されたから、一度様子を見にきたんだ。演説もちょうど、その時に録れた」カトゥーは自慢げだ。
「そのままオポポニーチェと戦おうかとも思ったが、俺とカトゥーの二人だけだと、奴に負ける可能性がある。そこで、一度リアルカディアで準備を整え、再出発してきた」
「そ。古城に行く前に、本部にまだ手がかりが残っていないかと思ってさ。で、遺体を片付けてたら、ゲーテが建物から出てきたって訳。でも大丈夫。本部の安全を確認したから、ダビデの星に連絡しておいた。葬式はしっかりとおこなえるよ」
『ダビデの星』とは、GRCでいう黒マントのようなものだ。錬金術師ではないが、雑務を片付けてくれる。
「準備を整えてきたということは……、やはり……勝つ手段があるということか?」
ゲーテは、死んだ団員のことなど露ほども考えていなかった。今心配なことは、ニーチェとカミーラのことだけだ。
「さっきも言ったでしょ。俺を信じてよ」カトゥーは、奥にいる女性を差した。
「あの子が、今回の主力だ」
ーーあの子……。
華奢で弱そうだ。ただ、KOKの団員ということは、おそらく錬金術師なのだろう。
「スノー。ピアニストだ」スノーはゲーテと目も合わさずに、座ったまま小さくお辞儀をした。
ーーピアニスト?
聞いたことがある。二年前にKOKの実力を見て以来、ゲーテは、強い錬金術師の噂を集めていた。そして半年前、ある噂が入ってきた。曰く、戦場にピアノ音楽が流れた時、敵は、その物語から抜けることができなくなる、と。
ーーあのピアニスト。ならば勝機はあるのか。
ゲーテは、負けるつもりでニーチェの元へと戦いに赴くつもりだった。だが、自信満々で楽しそうなカトゥーを見ていると、少しだけではあるものの、この戦いに望みを抱くようになった。なんとかして全団員を出し抜き、ニーチェを再び、自分の親友として迎え入れようという望みを。
「オポポニーチェの演説を聞いたかい?」
「演説?」
「聞いてないの? やっぱなー。時間的にそうだと思ったんだ」そういえば、今は夕方だ。昨日から丸一日は倒れていたことになる。
カトゥーは、奥の荷物箱から鳥籠を取り出した。
「ほらこれ。オポポニーチェの声が入ってるよ」鳥籠のカバーを外す。鳥籠から、ニーチェの声が聞こえ始めた。
『諸君。これは戦争だ。黄金の落日は始まった。神々の黄昏まで後三日。それまでに私を止めなければ、君たちの人生は終わりを告げる。恐れ慄き、私に挑戦せよ。四日日の日が落ちた時、私は無敵になる。以降、全ての団員を殺し尽くすことにしよう。逃げも隠れもしない。私は、シェリダン・レ・ファニュ城にて貴方がたを待ち受ける。心してかかってきなさい。オーッポッポッポッポ』
『諸君……』ニーチェの演説が繰り返される。カトゥーは、鳥籠にカバーをかけた。
「という訳さ。さて、どうする?」
「あいつが来いと言うのなら決まってる。古城に向かってくれ」
「そう言うと思っていたよ」カトゥーはあっけらかんとしていた。
「お前が眠っていた間の経緯について教えてやろう」運転をしているスカラーが太い声で伝える。
「お前が倒れた後、ニーチェは副団長の緊急警報を使用して、この演説を全団員に伝えた。GRCは混乱している。本部の壊滅を確認した後、主要部隊が集まって、緊急会議を開いた。その結果、ニーチェをGRCから脱退させ、オポポニーチェと改名することで、敵だという立場を全団員に知らしめた。穢れた薔薇、という異名もつけた。そして同時に、私たちKOKを呼んだんだ」
GRCに呼ばれてからでは、ニーチェの演説を録音できないはずだ。
「なぜカトゥーは、演説を録音できたんだ?」
「そりゃ、ニーベルングの指環の発動にタグ付けしておいたからだよ」
「タグ付け?」
「ほら。俺らって、危険なFを管理する組織じゃん? Sランク以上のFには、いつも注意を払ってるんだよ。それが発動されたから、一度様子を見にきたんだ。演説もちょうど、その時に録れた」カトゥーは自慢げだ。
「そのままオポポニーチェと戦おうかとも思ったが、俺とカトゥーの二人だけだと、奴に負ける可能性がある。そこで、一度リアルカディアで準備を整え、再出発してきた」
「そ。古城に行く前に、本部にまだ手がかりが残っていないかと思ってさ。で、遺体を片付けてたら、ゲーテが建物から出てきたって訳。でも大丈夫。本部の安全を確認したから、ダビデの星に連絡しておいた。葬式はしっかりとおこなえるよ」
『ダビデの星』とは、GRCでいう黒マントのようなものだ。錬金術師ではないが、雑務を片付けてくれる。
「準備を整えてきたということは……、やはり……勝つ手段があるということか?」
ゲーテは、死んだ団員のことなど露ほども考えていなかった。今心配なことは、ニーチェとカミーラのことだけだ。
「さっきも言ったでしょ。俺を信じてよ」カトゥーは、奥にいる女性を差した。
「あの子が、今回の主力だ」
ーーあの子……。
華奢で弱そうだ。ただ、KOKの団員ということは、おそらく錬金術師なのだろう。
「スノー。ピアニストだ」スノーはゲーテと目も合わさずに、座ったまま小さくお辞儀をした。
ーーピアニスト?
聞いたことがある。二年前にKOKの実力を見て以来、ゲーテは、強い錬金術師の噂を集めていた。そして半年前、ある噂が入ってきた。曰く、戦場にピアノ音楽が流れた時、敵は、その物語から抜けることができなくなる、と。
ーーあのピアニスト。ならば勝機はあるのか。
ゲーテは、負けるつもりでニーチェの元へと戦いに赴くつもりだった。だが、自信満々で楽しそうなカトゥーを見ていると、少しだけではあるものの、この戦いに望みを抱くようになった。なんとかして全団員を出し抜き、ニーチェを再び、自分の親友として迎え入れようという望みを。