第2話 ある夜の出来事(1)

文字数 1,418文字

 事の発端は、イルミナティ十二貴族の一つである、サヴォイ家からの依頼だった。
 イルミナティとは、世界を裏で支配する組織のことだ。主に欧米の権力者、知識層、大金持ちによって構成されている。裏で支配する組織というのは、悪いことではない。力あるものが世界の設計図を創造する。これは絶対のことわりだ。
 その中でもイルミナティは、民主主義や自由主義を核とした、質の良い支配者である。もしイルミナティではなく、中国共産党が世界を支配するようになれば、文明国の人間は監視され、自由な発言ができなくなる。ウイグル地区のように、中国の文化以外は破壊され、民族同化政策もとられるだろう。
 まぁ、人間には、それならそれで、生き続けられる柔軟さがある。裏で密かに権力者が変わったとしても、一般人はただ、これからも、自分の周りのことに一喜一憂して生きていくのだろう。
 そのイルミナティで、貴族層を担っているのが十二貴族だ。
 スイス金融界を支配するシェルバーン家。諜報機関の世界トップであるタクシス家。軍事機密トップの両輪、イスラエルのアイゼンベルグ家と、カナダのブロンフマン家。ベネチア金融界を支配するデル・バンコ家。他にも、エッシェンバッハ家、レーゲンベルク家、キーブルク一家、フローブルク家、ラッパースヴィル家、トッゲンブルク家。全て、権力者に資金提供することで莫大な権力を得ている貴族たちだ。
 サヴォイ家も、この十二貴族の中で上位に入る名家である。
 このサヴォイ家が黄金薔薇十字団に持ちかけた依頼によれば、サヴォイ家の親戚である貴族、ジュゼッペ・バルサーモが、ある晩、古城へと立ち寄った。古城はバルサーモ家のものであったようだが、長らく使用されていなかった。
 ジュゼッペは正義感から、祖先に感謝の念を込め、この古城を掃除しようと思っていたという。だが、いつの間にか住み着いていた相手に、大怪我をさせられたそうだ。本人は「女吸血鬼が隠れている」と言っている。
 こうして、ほうほうのていで逃げ出してきたジュゼッペは、祖先の霊に報いるために、黄金薔薇十字団に対して、吸血鬼の捕縛を指示してきた、という訳だ。
 黄金薔薇十字団は、十七世紀の初めに設立された友愛結社『薔薇十字団』からの分派だ。本家は『バラ十字会』として、人間の精神探究をおこなっている。会員は世界各国、数十万人を超える大組織だ。
 その中で、錬金術師の才能を持つ者、または錬金術を勉強したい人材を選び、黄金薔薇十字団が設立された。
 錬金術は、現実世界『リアル』と、空想世界『アルカディア』の架け橋になる技術体系だ。
 リアルには現実しか存在しない。けれどもなぜか、現実では説明しえないことが起こる。これはほとんど、アルカディアと関係している。この超常現象を利用できる人間を、錬金術師と呼ぶ。
 このような不可思議な現象を処理できる錬金術師は、稀有にして貴重な存在である。もし、リアルがアルカディアに襲われるようなことがあれば、イルミナティは太刀打ちできない。この世界は力が全てだ。支配者層が変わってしまう。
 そうなりたくはないと考えているイルミナティ内のいくつかの権力者は、黄金薔薇十字団に莫大な資金を提供し、日々、錬金術についての研究をさせているのだ。 
 そして黄金薔薇十字団は、資金援助を受ける代わりに、アルカディアに関連する不可思議な事件に対応する依頼を受ける。だから今回も、吸血鬼退治を依頼された。
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登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

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