第9話 ホムンクルス Homunculus
文字数 1,387文字
ホムンクルスとは、ラテン語で小人の意味だ。だが、錬金術師用語では、人造人間を指す。ルネサンス期の錬金術師、パラケルススが開発した。当初はフラスコの中から出ることができなかったが、今では、普通の人間と変わらずに動かせるようになっている。
だがその分、作り方は難解を極める。簡単に説明するとこんな感じだ。
まず、肉体と生命を分けて作る。
肉体は、現代の遺伝子工学を利用する。他人の遺伝子や肉体を利用し、培養液で成長促進させた人工栽培だ。だが、このままでは植物人間に過ぎない。入れ物を作った後は、生命だ。
賢者の石を加工し、黄金心臓と黄金脳を作り上げる。最後に血液を用意し、黄金心臓に流す。うまく脳と血管に流れ続ければ完成だ。
現代の錬金術レベルでは、この、血を流し続ける作業が難しい。黄金心臓で適量の血液を生産することができず、徐々に減るか、溢れてしまう。また、黄金脳に血液が足りなくなり、すぐに死んでしまったり、知恵遅れのようになってしまう。
上手く作れても、生存期間は十日もない。教育する時間がなければ、人間は、ただの動物と変わりがない。
だが、肉体を二日生かす程度のホムンクルスなら、いくらでも生産することができる。ニーチェは、実験体のうちの一体を取り出し、念入りに整形を施した。
ーーどうせ古城は暗かったはずだ。バルサーモの野郎、カミーラの顔など満足に見えてはいまい。
こうして、カミーラのように見えるホムンクルスが完成した。ニーチェは、ゲーテにホムンクルスを渡し、ゲーテは、バルサーモの元へと訪れた。
バルサーモの屋敷で、ゲーテは、死んだばかりのホムンクルスを机の上に乗せた。
「……という訳で、彼女は護送中、自殺をしてしまったのです」
培養液の入ったカプセルから出せば、ホムンクルスはすぐに死んでしまう。ゲーテは、彼女の死の理由を、自殺としてバルサモに伝えた。
「惜しい。惜しいのっ!」
バルサモは、ゲーテを一顧だにしない。欲望のままに生きてきたとでもいうような弛んだ腹を抱えながら、ただひたすらに、ホムンクルスの乳房や下腹部を触っていた。彼の下腹部は隆起している。
「あの」
「いいっ」
「えっ?」
「もういい。去ねっ!」
ゲーテ一行は、ろくに説明することもなく、部屋から追い出されてしまった。
部屋からはすぐに、カチャカチャとベルトを外す音と、豚のような男の喘ぎ声が聞こえてくる。
ーーヴッッッ。
ゲーテは吐き気を必死で堪えた。団員ゆえに、上司の命令には絶対に従う。
ーーだが、高潔なニーチェが嫌がるのも無理はない。
黄金薔薇十字団という団体を保つための金銭という現実と、黄金の心を持つことの理想。二つを両立することは難しい。ニーチェは頭がいいのに、いつも理想ばかりに振り切って行動する。それがいかに、組織を危険に晒すのかがわかっていない。
ーー仕方ない。これからも、現実の汚い部分は俺が背負おう。
ゲーテは、バルサモの屋敷から馬車に揺られ、最寄りの飛行場まで向かっていった。
しかし、もし、ここにニーチェがいたら、こう反論していただろう。
「飛行機で馬車ごと運送するような見栄えを気にする金があるのなら、安い車を借りて節約すればいい。人に媚を売ってお金を得るのではなく、清貧に組織を運営し、研究で作った成果を貸し出せば十分事足りる」と。
ゲーテは、オールバックの髪をかきむしった。
だがその分、作り方は難解を極める。簡単に説明するとこんな感じだ。
まず、肉体と生命を分けて作る。
肉体は、現代の遺伝子工学を利用する。他人の遺伝子や肉体を利用し、培養液で成長促進させた人工栽培だ。だが、このままでは植物人間に過ぎない。入れ物を作った後は、生命だ。
賢者の石を加工し、黄金心臓と黄金脳を作り上げる。最後に血液を用意し、黄金心臓に流す。うまく脳と血管に流れ続ければ完成だ。
現代の錬金術レベルでは、この、血を流し続ける作業が難しい。黄金心臓で適量の血液を生産することができず、徐々に減るか、溢れてしまう。また、黄金脳に血液が足りなくなり、すぐに死んでしまったり、知恵遅れのようになってしまう。
上手く作れても、生存期間は十日もない。教育する時間がなければ、人間は、ただの動物と変わりがない。
だが、肉体を二日生かす程度のホムンクルスなら、いくらでも生産することができる。ニーチェは、実験体のうちの一体を取り出し、念入りに整形を施した。
ーーどうせ古城は暗かったはずだ。バルサーモの野郎、カミーラの顔など満足に見えてはいまい。
こうして、カミーラのように見えるホムンクルスが完成した。ニーチェは、ゲーテにホムンクルスを渡し、ゲーテは、バルサーモの元へと訪れた。
バルサーモの屋敷で、ゲーテは、死んだばかりのホムンクルスを机の上に乗せた。
「……という訳で、彼女は護送中、自殺をしてしまったのです」
培養液の入ったカプセルから出せば、ホムンクルスはすぐに死んでしまう。ゲーテは、彼女の死の理由を、自殺としてバルサモに伝えた。
「惜しい。惜しいのっ!」
バルサモは、ゲーテを一顧だにしない。欲望のままに生きてきたとでもいうような弛んだ腹を抱えながら、ただひたすらに、ホムンクルスの乳房や下腹部を触っていた。彼の下腹部は隆起している。
「あの」
「いいっ」
「えっ?」
「もういい。去ねっ!」
ゲーテ一行は、ろくに説明することもなく、部屋から追い出されてしまった。
部屋からはすぐに、カチャカチャとベルトを外す音と、豚のような男の喘ぎ声が聞こえてくる。
ーーヴッッッ。
ゲーテは吐き気を必死で堪えた。団員ゆえに、上司の命令には絶対に従う。
ーーだが、高潔なニーチェが嫌がるのも無理はない。
黄金薔薇十字団という団体を保つための金銭という現実と、黄金の心を持つことの理想。二つを両立することは難しい。ニーチェは頭がいいのに、いつも理想ばかりに振り切って行動する。それがいかに、組織を危険に晒すのかがわかっていない。
ーー仕方ない。これからも、現実の汚い部分は俺が背負おう。
ゲーテは、バルサモの屋敷から馬車に揺られ、最寄りの飛行場まで向かっていった。
しかし、もし、ここにニーチェがいたら、こう反論していただろう。
「飛行機で馬車ごと運送するような見栄えを気にする金があるのなら、安い車を借りて節約すればいい。人に媚を売ってお金を得るのではなく、清貧に組織を運営し、研究で作った成果を貸し出せば十分事足りる」と。
ゲーテは、オールバックの髪をかきむしった。