第23話 罠(3) Trap

文字数 1,206文字

「作戦は中止だ! 馬車に乗れ。急ぎ撤退する」
 テントまで戻り、入口を開く。
「レー。戻るぞ」
 テントの中には、少し前までレーだったミイラが落ちている。
ーーなっ!
 恐怖以外の何もない。
 ゲーテは馬車に飛び乗りながら、トランシーバーで叫んだ。
「生きてるものは? 誰かいないのか? 誰か!!
 呼ぶ声は、ただ、誰もいない森の中で響くだけだ。
 塔の天辺から、カミーラが、冷ややかな目で見つめている。
ーー恐ろしい。
 誰も待てない。ただ、馬車を必死に走らせる。
 ニーチェの茫然自失の目。
 カミーラの泰然自若の目。
 頭から離れない。
 どこまでも追ってくる。
ーー怖い。怖い。
 カミーラは本気を出せば、自分たちを簡単に殺せる力を持っていた。今まで我慢してくれていたのだ。古城に逃げたのは、リアリストに対する最後の憐憫だった。
 カミーラを追跡した愚かなリアリストに突きつけられた未来は、罠に次ぐ罠。ただ、それだけだった。ゲーテたちは、捕まえに行ったのではない。殺されに行っていたのだ。
ーーニーチェが殺された。カミーラが研究所に攻めこんできても、もはや、自分を守ることのできる人材は一人もいない。
 命からがら、一人で逃げるゲーテ。
ーーどうしたらいい。どうしたらいい。
ーー出世を捨てて、本部に応援を頼むか。
ーーいや。
 結果は同じ。他の錬金術師を集めて攻撃したところで、全滅の憂き目は免れない。見えないのでは、防御も無駄だ。
 そして、カミーラが毒の解除を考える以上、体勢が整えば、必ず第一研究所を襲撃してくるだろう。
ーーとにかく一人で、残りの日数を逃げ切るか?
 逃げ切れる自信がない。
 こうなると、手段は一つだ。
 ずっと悩んでいた答え。
 あれに頼るしかない。
 ゲーテは、第一研究所に戻ると、急ぎ防備を固め、副団長にメールを送った。
「貴方の送ってきたワーグナーたちの暴走により、カミーラは逃走。第一研究所は多数の死者が出ました。責任追及に関しましては後程。最終手段として、取り急ぎ、KOKに依頼をさせていただきます」という嘘の報告を。
 同時に、『ダビデ王の騎士団』へとクエスト依頼を出した。
 ナイツ・オブ・キング。KOKは、錬金術師界の頂点に立つ、圧倒的に強いといわれている騎士団だ。
ーー彼らなら、カミーラに対抗できるはず。
 だが、ゲーテが助力要請を躊躇していたのは、彼らの活動理由にあった。
 ダビデ王の騎士団は、ただ助けてくれるだけではない。彼らの目的は、リアルとアルカディアのバランスを崩さないようにすることだ。つまり、新しく発見されたFやアルカディアンは、彼らによって封印されてしまう。
 ゲーテとしては、せっかく見つけた女吸血鬼という希少なアルカディアンを、出来るだけ、失いたくはなかったのだ。
 だが、事ここに及んで、そうは言っていられない。出世よりも、発明や発見よりも、自分たちの命が一番大事。そんなことは、言うまでもないことである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み