第40話 神々の黄昏(2) Twilight of Gods

文字数 1,738文字

ーー雷鳴ブロンテス。
 『ケラウノス』には三つの技がある。そのうちの一つ、プロンテスは、雷と同じ速度で移動することができる技だ。
 ドーン。
 雷が落ちたかのような音がした瞬間、カトゥーは、ニーチェにナイフを突き立てていた。至近距離からの落雷を避けられる人間など、いるはずがない。
 だが、ニーチェは避けた。
 さらに、エムボマを蹴り飛ばす。
ーー稲妻アルゲス
 アルゲスは放電する技だ。カトゥーは放電しながら、尚もイナヅマの速度で攻撃した。ゲーテには全く見えないが、ニーチェは余裕だ。
 だが、これはおかしい。電撃を避けられるはずがない。
ーー分析完了。ニーチェは同時に、『ニーベルングの指環』を使用しています。これにより、神に匹敵する肉体を持っています。あらゆる攻撃は無効です。
 雷モードのカトゥーも、ニーチェに袈裟斬りにされた。
ーー仕切り直そ。
 カトゥーは、一気に十メートル後退した。幸い、傷は浅い。
ーースノー。ニーチェに弱点はないの?
ーー背中に一箇所、菩提樹の葉程度ですが、無敵ではない場所があります。ただし、その部分は本人も気づいております。攻撃を当てることは、かなり難しいでしょう。
ーーなるほどね。
 カトゥーの傷は浅い。だがエムボマは、内臓に届くほどの怪我を負ったようだ。高速で剣を振られるよりも、高速でカウンター気味に蹴りを入れられる方が、ダメージはより大きい。
「貴方がたは、ゲーテのお供に過ぎません。私は、ゲーテとお話がしたいのですよ。邪魔をしないでください。オーポポポポポ」
 ニーチェはゆっくりと、ゲーテに向かって歩いていった。
ーーそうだと思ってたよ。
 実力差などは全く考えていない。剣を抜いたゲーテも、ニーチェへと向かう。
 ゲーテの持っている剣は『ゴールデン・ガーディアン』という。Fではないが、PSをオリハルコンに変性して製作された逸品だ。ASを使用せずともアルカディアンを切り裂くことができる。
 そして四年前に、ニーチェとゲーテが共同して作り上げた最後の作品だ。
「その剣を持ってきましたか」
 ゲーテは目で答える。
 たった五歩。
 この間に、口には出していないものの、二人は、たくさんの会話をおこなっていた。初めてGRCにやってきて、十五年が経過した。二人は、たくさんの友情を育みあってきた。そして今、敵として、剣を持って目の前に立っている。
 数奇な運命。互いに殺し合う気はある。だが、憎しみはない。尊敬の気持ちだけだ。
 いつもGRCと出世のことを考えて生きてきたゲーテは、皮肉なことに、この瞬間、初めて苛立ちから解放することができた。
 何もない。ただ、親友のことだけを考える。
 二人はごく自然に、お互いの胸に、剣を突き立てた。
ーー時止め。
 その時、場の空気を読まないカトゥーの、FDS2『神の間隙』が発動した。一秒だけ時間を止めることができる。カトゥーはこのFを手に入れたことにより、三番隊隊長へと昇格した。
 ニーチェの背後へと雷鳴で跳び、稲妻で一閃。
 ケラウノスが、ニーチェの背中の弱点を刺し貫く。
 時は動く。
ーーうっ。
 ニーチェの剣先がブレ、ゲーテの脇腹に刺さる。
 ゲーテの剣先は……。
 見事にニーチェの胸から入り、背中までを刺し貫いていた。
 二人はダンスでも踊るように、一歩、また一歩と、壁に向かってよろめいていく。
 ニーチェの背中が、窓にぶつかる。
 外は、断崖絶壁だ。
 狂ったように視線が揺れ動いていたニーチェは、この瞬間、知的な昔のニーチェの目線に戻っていた。
 ゲーテの突き抜けていた剣先が、窓ガラスを突き破る。
「さらば、友よ」
ーーさらば、俺の全て。思い出の全てよ。
 ゲーテは、誠心誠意の愛情を込め、力を込めた。
 バリーン。
 ニーチェは笑顔で窓の外へと落ちた
 胸に剣を刺したまま、谷底へと吸い込まれていく。
ーー鼓動確認。徐々に弱っています。
 寒気が部屋に吹き荒ぶ。
ーー今、鼓動が消えました。
 ゲーテは風に煽られながらも、崖下を見つめて動かなかった。
 スノーのピアノがゆっくりと、曲の最後を締めくくる。
 バゼドウの目線から戦いを見ていた団員たちは、揃ってゲーテを讃える歓声を歌う。
 カトゥーは何も言わない。ただ、ゲーテに上着を羽織り、優しく後ろから手を添えていた。
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登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

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