第41話 黄金の夜明け Golden Dawn
文字数 1,614文字
数日後、幹部会議が開かれた。団員と多くの錬金術師が減ったGRCは、本部の建物を取り壊し、第七研究所を新しい本部と定めた。副団長不在の中、団長はあらわれない。幹部も半分は死亡した。ゲーテは一命を取り留めたが、大怪我を負って動けない。心身ともに疲弊もしている。
指導者もいない。本部の機能も正常ではない。GRCの団員たちは、全員が不安に思っている。それでもGRCを引っ張る幹部たちとは、混乱を早く鎮静させなければいけなかった。
一週間後。
GRC全団員、約千名が、新本部の中庭に集結させられた。
バルコニーに太った男が立つ。新幹部の一人、バゼドウだ。
「ただ今より、新副団長就任の挨拶をおこないます。副団長。前へお越しください」
カーテンが揺れる。
奥の部屋から、ゆったりとした動作で顔を出すのは、ゲーテだ。脇腹を押さえている。ニーチェとの戦いでケガをしたので、びっこもひいている。隣で肩を貸している女性は、クリスティアーネ・ヴルピウス。ゲーテの幼馴染だ。ニーチェは彼女をどうしても殺せなかったのだろう、他の錬金術師はミイラ化していたが、彼女だけが仮死状態で生き延びることができた。
団員たちは、ゲーテの体調を、心配そうにしながら見上げている。
ゲーテは、団員を見回した後、高々と手をあげた。
ーーやはりゲーテは無敵だった!
団員たちから歓声があがる。
パゼドウが司会を続ける。
「こちらは、皆さんご存知だと思います。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。彼が、新らしい副団長です。第一次カミーラ事件、第二次カミーラ事件、穢れた薔薇事件。全ての黄金薔薇十字団の危機において、いつも仲間の仇をとってきました。今回、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ副団長の仇を取ったのもゲーテです。敵であった穢れた薔薇、オポポニーチェをも討ち取りました。幹部会でも、全会一致での決定です」
ーーそうだろう。そうだろう。
団員たちも納得した表情をしている者が多い。
ゲーテは、スタンドマイクに口を近づけた。
「今回、副団長に任命された、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだ」
今回の戦いで精神的な成長が見られたのか。以前に増して、威厳が凄い。全団員は、固唾を飲んで、次の言葉を待った。
「私は、副団長に就任した。今までの私には、力がなかった。守りきれずに倒れた仲間もたくさんいた。だが、こうして力を与えてもらったからには、これからの君たちは、私が守る。私はさらに、君たちの十字架を全て背負えるくらい強くなろう。ただし、一人では難しい。私を仰ぎ見ている君たちよ。一人でも多く成長し、私の手伝いをしてほしい。黄金の大輪を、今まで以上に大きく咲かせ、仲間と共に、あの空の上にある真理を目指そう。君たちを愛している」
団員たちは狂喜乱舞し、ゲーテを神のように崇め奉りはじめた。
クリスティアーネもようやく吹っ切れた。ずっと袖にされ、最後は殺されかけたニーチェではなく、ずっと愛し続け、守り続けてくれたゲーテと共に、この先の人生を歩んでいこうと決めた。昨日、婚姻も結んだ。
山の上には二羽の小鳥がいた。
ーー俺とクリスティアーネだ。
そして今、山の下には、それぞれの十字架を背負ったたくさんの団員が見える。
ーー彼らは、俺が守らなければならない。
それが強者の義務だ。
ーーそして。
空を見る。
一羽の小鳥が、雲の上へと隠れて消えた。
山を登っている最中は、ただ山頂までの道しか見えなかった。だが、山頂から見回すと、地上も天空も驚くほど広い。
ーー俺はもう、ただ山頂のバラに憧れる青年ではなくなった。世界を見るんだ。俺が世界にできることは、こんな小さなものではない。このバラを大きく高く成長させていこう。いつか来る、戦いのために。
大局観。
天地どこまでも広く丸いこの山頂に立ち、ゲーテはまた、新しい目標に向かって羽ばたくことを誓ったのであった。
空はどこまでも青かった。
指導者もいない。本部の機能も正常ではない。GRCの団員たちは、全員が不安に思っている。それでもGRCを引っ張る幹部たちとは、混乱を早く鎮静させなければいけなかった。
一週間後。
GRC全団員、約千名が、新本部の中庭に集結させられた。
バルコニーに太った男が立つ。新幹部の一人、バゼドウだ。
「ただ今より、新副団長就任の挨拶をおこないます。副団長。前へお越しください」
カーテンが揺れる。
奥の部屋から、ゆったりとした動作で顔を出すのは、ゲーテだ。脇腹を押さえている。ニーチェとの戦いでケガをしたので、びっこもひいている。隣で肩を貸している女性は、クリスティアーネ・ヴルピウス。ゲーテの幼馴染だ。ニーチェは彼女をどうしても殺せなかったのだろう、他の錬金術師はミイラ化していたが、彼女だけが仮死状態で生き延びることができた。
団員たちは、ゲーテの体調を、心配そうにしながら見上げている。
ゲーテは、団員を見回した後、高々と手をあげた。
ーーやはりゲーテは無敵だった!
団員たちから歓声があがる。
パゼドウが司会を続ける。
「こちらは、皆さんご存知だと思います。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。彼が、新らしい副団長です。第一次カミーラ事件、第二次カミーラ事件、穢れた薔薇事件。全ての黄金薔薇十字団の危機において、いつも仲間の仇をとってきました。今回、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ副団長の仇を取ったのもゲーテです。敵であった穢れた薔薇、オポポニーチェをも討ち取りました。幹部会でも、全会一致での決定です」
ーーそうだろう。そうだろう。
団員たちも納得した表情をしている者が多い。
ゲーテは、スタンドマイクに口を近づけた。
「今回、副団長に任命された、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだ」
今回の戦いで精神的な成長が見られたのか。以前に増して、威厳が凄い。全団員は、固唾を飲んで、次の言葉を待った。
「私は、副団長に就任した。今までの私には、力がなかった。守りきれずに倒れた仲間もたくさんいた。だが、こうして力を与えてもらったからには、これからの君たちは、私が守る。私はさらに、君たちの十字架を全て背負えるくらい強くなろう。ただし、一人では難しい。私を仰ぎ見ている君たちよ。一人でも多く成長し、私の手伝いをしてほしい。黄金の大輪を、今まで以上に大きく咲かせ、仲間と共に、あの空の上にある真理を目指そう。君たちを愛している」
団員たちは狂喜乱舞し、ゲーテを神のように崇め奉りはじめた。
クリスティアーネもようやく吹っ切れた。ずっと袖にされ、最後は殺されかけたニーチェではなく、ずっと愛し続け、守り続けてくれたゲーテと共に、この先の人生を歩んでいこうと決めた。昨日、婚姻も結んだ。
山の上には二羽の小鳥がいた。
ーー俺とクリスティアーネだ。
そして今、山の下には、それぞれの十字架を背負ったたくさんの団員が見える。
ーー彼らは、俺が守らなければならない。
それが強者の義務だ。
ーーそして。
空を見る。
一羽の小鳥が、雲の上へと隠れて消えた。
山を登っている最中は、ただ山頂までの道しか見えなかった。だが、山頂から見回すと、地上も天空も驚くほど広い。
ーー俺はもう、ただ山頂のバラに憧れる青年ではなくなった。世界を見るんだ。俺が世界にできることは、こんな小さなものではない。このバラを大きく高く成長させていこう。いつか来る、戦いのために。
大局観。
天地どこまでも広く丸いこの山頂に立ち、ゲーテはまた、新しい目標に向かって羽ばたくことを誓ったのであった。
空はどこまでも青かった。