第38話 最期の舞台 Last Stage
文字数 1,984文字
次の日の朝、ゲーテたちはシェリダン・レ・ファニュ城に到着した。車ではいけない森のデコボコ道だったが、キャンピングカーのタイヤは特殊で、「スカラーの運転の腕前と合わされば、崖でも登れる」と言う豪語通りに奥までたどり着いた。
たくさんのGRC団員が集結している。その数、百人以上。負ければ黄金薔薇十字団は全滅する。総戦力で挑む覚悟のようだ。
「いつの間にこんなに」ゲーテは驚いた。目覚めてすぐ古城にやってきたというのに、ほぼ全錬金術師が集まっている。
「何を言ってるんだ?」スカラーはため息をついた。
「オポポニーチェが誕生してから、今日で四日目だ」
「四日目?」
ということは。
ーー自分は二日間以上も倒れていたのか。
「そう。今日が神々の黄昏だ。あの太陽が落ちた時、君たちの運命は終了する」
「そんなことはさせない」
「だから俺たちが来てんだよ。言ってやれ、ゲーテ」
前を見ると、ゲーテたちのキャンピングカーが中央に進んでいく様子を、GRC団員全員が眺めている。
ゲーテは、キャンピングカーの上に立った。
「諸君! 案ずるな! 私が来た!」大きく手を挙げる。こういうパフォーマンスは、ゲーテの何よりも得意とするところだ。
部下のミスを何度も救ってきた男が来た。ゲーテは、すでに死んだと思われていたのだ。諦めかけていた団員たちから、眼に見えるように気力が復活する。
GRCは、ゲーテの一言で、一気にまとまった。
ゲーテの足元で、カトゥーが足をつつく。何か言いたげだ。目で合図を送る。
「私が全てを解決する。遅れたのは、決死隊を結成していたからだ。作戦立案は、この男に任せている」
カトゥーは身軽に、キャンピングカーの屋根に跳び上がってきた。
「みんなー。こんちゃーっす!! 俺は、インポスター言いまーす!」相変わらず軽佻浮薄な物言いだ。
「これから俺らは、ゲーテが選定したチームで、城へ突入するよー」
ゲーテはうなづいた後、全員に向かって左手を突き出した。
「余計な犠牲者が出てはならない。皆は一度、下がって待て。副団長の仇は俺が討つ」
ゲーテの今までの実績を知っている団員たちは、潮が引くように安心した顔になった。大歓声を上げる。
行動し続ければ、向上し続ける。カリスマだけを追求してきたゲーテの信頼感は、この瞬間、神をも超えた。
ゲーテが立っているキャンピングカーは、割れた人ごみの中を、ゆっくりと前へと進んでいった。その姿は、まるで旧約聖書に出てくる海を割ったモーゼのように荘厳だった。
「ここにしよう」スカラーが車を止める。
「誰か、証人を決めてよ」カトゥーがゲーテに言う。
「ヨハン・ベルンハルト・バゼドウAPE。前に」体格のいい中年男性が前に出る。第一研究所で育てていた子飼いの錬金術師だ。驚いた顔をしている。
「よし。こっちに来い」バゼドウは太り気味だが、フィロソフィアーだけあって身軽だ。
ーーこれならついて来れるね。
カトゥーも満足した。
「それじゃ、こっから、演奏会を始めるよー。トラックの前に集まってー」カトゥーの言われるがまま、全GRC団員が集合する。
「マジックMルーム」
カトゥーは、小さなおもちゃの箱をトラックの横に置いた。キャンピングカーより大きくなる。中には、ステージとグランドピアノが入っている。
スノーが車から降りる。いつの間にか、イブニングドレスに着替えている。みんなにお辞儀。タキシードに着替えたスカラーが挨拶をした。
「ここからはゲーテを信じ、演奏の世界に酔いしれてください!」
スノーがピアノの椅子に座り、調弦を始める。
ぽこ。
ぽこぽこぽこ。
次々と、観客となった団員の頭から白い魂のようなものが出る。
グランドピアノに紐づけられる。
もちろん、この紐は錬金術師にしか見えない。黒マントの団員は、寒空で聞くピアノの音色に感動しているだけだ。赤マントはほとんどがゲーテの信奉者なので、見えていても信頼して不安には思っていない。
遠くから、大型バイクがやって来た。エムボマだ。
「全員揃ったな」スカラーがつぶやく。
「ゲーテ! 行こう!」カトゥーも呼ぶ。
ーー是非もなし。
ゲーテはキャンピングカーから降りた。バゼドウも加わる。これで討伐隊の全員が揃った。
三百メートルほど先に、古城が聳え立っている。
ーー待ってろ、ニーチェ。
先ほどまでただの音に過ぎなかったピアノから、ゆっくりとした音楽が聞こえてくる。頭の中で、言葉ではない情報として分析される。
道から城までの導線。
城の中の様子。
形のない情報たちだが、言葉以上に雄弁な情報だ。
そこに交わる団員たちの魂。
団員全ての思いを背負い、KOK全ての情報を手にしているような気分。
ーー無敵だ。
神vs神。
無敵同士の一戦がいよいよ始まる。
ーーもう、前しか見ない。
ゲーテは、意気高らかに、ニーチェの元へと進んでいった。
たくさんのGRC団員が集結している。その数、百人以上。負ければ黄金薔薇十字団は全滅する。総戦力で挑む覚悟のようだ。
「いつの間にこんなに」ゲーテは驚いた。目覚めてすぐ古城にやってきたというのに、ほぼ全錬金術師が集まっている。
「何を言ってるんだ?」スカラーはため息をついた。
「オポポニーチェが誕生してから、今日で四日目だ」
「四日目?」
ということは。
ーー自分は二日間以上も倒れていたのか。
「そう。今日が神々の黄昏だ。あの太陽が落ちた時、君たちの運命は終了する」
「そんなことはさせない」
「だから俺たちが来てんだよ。言ってやれ、ゲーテ」
前を見ると、ゲーテたちのキャンピングカーが中央に進んでいく様子を、GRC団員全員が眺めている。
ゲーテは、キャンピングカーの上に立った。
「諸君! 案ずるな! 私が来た!」大きく手を挙げる。こういうパフォーマンスは、ゲーテの何よりも得意とするところだ。
部下のミスを何度も救ってきた男が来た。ゲーテは、すでに死んだと思われていたのだ。諦めかけていた団員たちから、眼に見えるように気力が復活する。
GRCは、ゲーテの一言で、一気にまとまった。
ゲーテの足元で、カトゥーが足をつつく。何か言いたげだ。目で合図を送る。
「私が全てを解決する。遅れたのは、決死隊を結成していたからだ。作戦立案は、この男に任せている」
カトゥーは身軽に、キャンピングカーの屋根に跳び上がってきた。
「みんなー。こんちゃーっす!! 俺は、インポスター言いまーす!」相変わらず軽佻浮薄な物言いだ。
「これから俺らは、ゲーテが選定したチームで、城へ突入するよー」
ゲーテはうなづいた後、全員に向かって左手を突き出した。
「余計な犠牲者が出てはならない。皆は一度、下がって待て。副団長の仇は俺が討つ」
ゲーテの今までの実績を知っている団員たちは、潮が引くように安心した顔になった。大歓声を上げる。
行動し続ければ、向上し続ける。カリスマだけを追求してきたゲーテの信頼感は、この瞬間、神をも超えた。
ゲーテが立っているキャンピングカーは、割れた人ごみの中を、ゆっくりと前へと進んでいった。その姿は、まるで旧約聖書に出てくる海を割ったモーゼのように荘厳だった。
「ここにしよう」スカラーが車を止める。
「誰か、証人を決めてよ」カトゥーがゲーテに言う。
「ヨハン・ベルンハルト・バゼドウAPE。前に」体格のいい中年男性が前に出る。第一研究所で育てていた子飼いの錬金術師だ。驚いた顔をしている。
「よし。こっちに来い」バゼドウは太り気味だが、フィロソフィアーだけあって身軽だ。
ーーこれならついて来れるね。
カトゥーも満足した。
「それじゃ、こっから、演奏会を始めるよー。トラックの前に集まってー」カトゥーの言われるがまま、全GRC団員が集合する。
「マジックMルーム」
カトゥーは、小さなおもちゃの箱をトラックの横に置いた。キャンピングカーより大きくなる。中には、ステージとグランドピアノが入っている。
スノーが車から降りる。いつの間にか、イブニングドレスに着替えている。みんなにお辞儀。タキシードに着替えたスカラーが挨拶をした。
「ここからはゲーテを信じ、演奏の世界に酔いしれてください!」
スノーがピアノの椅子に座り、調弦を始める。
ぽこ。
ぽこぽこぽこ。
次々と、観客となった団員の頭から白い魂のようなものが出る。
グランドピアノに紐づけられる。
もちろん、この紐は錬金術師にしか見えない。黒マントの団員は、寒空で聞くピアノの音色に感動しているだけだ。赤マントはほとんどがゲーテの信奉者なので、見えていても信頼して不安には思っていない。
遠くから、大型バイクがやって来た。エムボマだ。
「全員揃ったな」スカラーがつぶやく。
「ゲーテ! 行こう!」カトゥーも呼ぶ。
ーー是非もなし。
ゲーテはキャンピングカーから降りた。バゼドウも加わる。これで討伐隊の全員が揃った。
三百メートルほど先に、古城が聳え立っている。
ーー待ってろ、ニーチェ。
先ほどまでただの音に過ぎなかったピアノから、ゆっくりとした音楽が聞こえてくる。頭の中で、言葉ではない情報として分析される。
道から城までの導線。
城の中の様子。
形のない情報たちだが、言葉以上に雄弁な情報だ。
そこに交わる団員たちの魂。
団員全ての思いを背負い、KOK全ての情報を手にしているような気分。
ーー無敵だ。
神vs神。
無敵同士の一戦がいよいよ始まる。
ーーもう、前しか見ない。
ゲーテは、意気高らかに、ニーチェの元へと進んでいった。