第29話 突入(3) Rush in

文字数 1,281文字

「彼女は、後どのくらいの命なの?」
「おそらく一ヶ月。苦しみ抜いて消滅するでしょう」
「リアルカディアへと連れて帰っても、直せる見込みはないのか?」
「薬がない限りは」
「可哀想……」
ーーうん。
 アンリーは、ボソリとつぶやいた。
「治せないならいっそ、今、ここで、安らかに眠らせてあげましょうか」
「そんなことができるのか?」
「ええ。どうやらこの毒は、私のFで効果を上げられそうです」
「じゃあ……、やってくれ」カトゥーは、つまらないことを言ったかのような態度をとりながら、部屋の奥へと動き出した。どうやら、奥に人の気配を感じたようだ。
 扉には鍵がかかっている。
 だが問題ない。
 ASを使って鍵を切り裂く。
 小さな部屋には、長い金髪の男が、芋虫のようにしてうずくまっていた。
ーー息はあるな。
 カトゥーは、男を抱き抱えて、カミーラの隣に横たえた。
「ニーチェ……」
 ゲーテは、自分の目が信じられなかった。
「アンリー。彼の容態はどうだ?」
 アンリーは、カミーラを安楽死させる動作をやめて、ニーチェを触診した。
「これは、睡眠薬を注射されているだけです。すぐに起こしましょう」
 アンリーは懐から取り出したケースから注射を取り出し、ニーチェに針を打ち込んだ。
「ん、んん……」すぐに目が覚める。研究所にいた時よりも健康そうだ。周りを見回したニーチェは、隣で、カミーラが倒れていることを知った。
「お前か!」ニーチェは、一番近くにいたカトゥーに襲いかかった。
 だが、いくらニーチェがカンプフリンゲンを嗜んでいるからといって、難関な依頼を好んで達成しているカトゥーには敵わない。
 ニーチェは、簡単に組み伏せられた。
「くそ。くそっ」ニーチェの力は衰えない。組み伏せられたまま、カミーラに近寄ろうとする。
ーーどういう関係なんだ?
 カトゥーは人間に興味がある。
「彼は、ニーチェは、カミーラのことを愛しているのです」
「えっ!」
ーー人間がアルカディアンに恋をするとは。じつに面白い。
「手は離すから落ち着け。俺たちは敵じゃない。暴れるなよ」
 言ってカトゥーは、ゆっくりと、ニーチェから手を離した。
 すぐさまカミーラに抱きつくニーチェ。
 カトゥーは立ち上がった。
 欠伸をしながら、部屋を出て行こうとする。
「どうするのですか、カトゥー」アンリーが聞く。
「もう、カミーラは何もできないでしょ? 恋人の邪魔してると思ったら、なんか飽きちゃった」カトゥーは興醒めな顔をして、階段を降りていった。
ーー仕方ないなぁ。
 スカラーとエムボマも後に続く。
「彼女はカトゥーの獲物。私たちに何かをする権利はないのじゃ」ゲーテの腰を叩き、リンリンも階段を降りていった。
 アンリーはゲーテに近づき、小声で言った。
「私は部屋の外で待ち、ニーチェが落ち着いた段階で、二人の具合を検診してから降りていきます。あなたは、下で待っていてください」
「アンリーは俺の弟子だ。俺も残ろう」ヤマナカも部屋の外に待つようだ。
 扉を閉める。
「あっ、あっ、うばあああああああああ!!!」ニーチェの慟哭が城いっぱいに響く。
 すでに、フクロウの声は鳴き止んでいた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み