第22話 罠(2) Trap

文字数 1,694文字

 ゲーテは目を見張った。団員たちもざわついている。
ーー俺たちを休ませない作戦か?
 罠の可能性が高い。ゲーテは、追おうか待とうか迷った。
 だが、腕に覚えのあるラヴァーターは、短銃と長剣を帯に差し込み、トランシーバーを机からひったくり、そのまま腰に挿して飛び出していった。
「しょうがないわねぇ」準備したルーも続く。
 ゲーテは、ニーチェを見た。
ーー仕方ないね。
 ニーチェは、困った顔をしながら準備を始める。
ーーうむ。仕方がない。
 ゲーテはうなづき、レーに後を頼んだ。
「団員全員にチルドレンをつけて見張ってやってくれ。誰かが危ない時には指示を頼む。命を大事にだ。徹底してくれ」
 レーと話しながらも、テントの中から状況把握に努める。目の前の光景。
ーーえっ!?
 何が起きたか分からない。
 いつの間にか、ルーがいない。
 ラヴァーターは見当違いな場所に剣を振っている。
 カミーラは、数百ものコウモリに分裂した。
 コウモリの群れは四つに分裂し、それぞれが古城の四隅に飛んだ後、カミーラの姿へと変化する。
ーーカミーラが四人?
 ゲーテは焦った。どれが本物かは分からない。
「ちっ!」ラヴァーターは、カミーラを追って、門へと入っていく。
 仲間の危機。すでにニーチェも走り出している。
 ゲーテも後を追う。
 ニーチェは、先ほどまで戦闘がおこなわれていた場所に行った。
 三メートルほどの穴に、ルーが落ちている。MAになっているので、ケガはしていない。ステッピン・ストーンで地上へと戻る。
「大丈夫か?」ニーチェが落とし穴から引っ張りながら、ルーの肩を抱く。
「ええ。心配な……しんぱひなひ」急に酔ったような声。
「おい! ルー!!」ルーは恨めしそうな顔をしながら、ニーチェの腕の中でミイラになっていく。
 ゲーテがたどり着いた時には、すでにルーは、ルーでなくなっていた。
ーーあのカミーラが、ここまでの強硬手段にでるとは。
 ゲーテは驚きと共に、カミーラは絶対に危ないアルカディアンではないという、舐めた気持ちがどこかにあったと気づいた。戦いの場に向かっていたというのに、自分はどこか、緩い気持ちで戦場に立っていたのだ。
 ニーチェは、ミイラを地面に置き、顔を上げた。
 尖塔の頂上にある部屋を見る。
 数瞬の後、無言で、古城の門へ向かって走り出した。
ーーここを戦場だと思っていなかったのは、俺だけだったか。
「ルーを頼む!」追随してきた団員に一言頼み、ゲーテも、ニーチェの後を追っていった。
 ニーチェは、ゆるふわパーマをなびかせ、一足飛びに螺旋階段を登っていく。
「待て、カミーラ!!」迷いがない。ゲーテには見えない何かが見えているようだ。塔も十メートル以上の高さまで登っている。
 頂上に着く。
 そのまま躊躇することなく、部屋の中へと入っていく。
「カミーラ!」ニーチェの怒鳴り声。ドタバタが起きている。
ーー大丈夫か?
 ゲーテは急いで、ニーチェの手助けに向かった。
 女のうめき声。
 ドタバタが止む。
「ゲーテ。捕まえたぞ! 次は絶対に殺させない!」息切れした声。
 すぐにニーチェが、部屋から勢いよく、顔を出した。
 手にしたロープを、思い切り引っ張って。
 だが、ロープの先は、投げ縄状に括られているだけだ。
 他には何もない。
 勢いよく飛び出したニーチェは、勢いよく飛び出したまま、塔の真ん中の空間へと飛び出し……。
 ゲーテは、逆さまになって落下するニーチェと、目が合った。
 それが、親友との今生の別れとなった。
 圧倒的な寒気と吐き気。
 感情が肉体を超える。
ーー嘘だ。
 下を覗く。
 ニーチェはすでに潰れ、石畳のシミとなっていた。手にはしっかりと、投げ縄状の縄を持ったまま。
ーーニーチェ? ニーチェ? 嘘だろ?
 気配を感じる。ゲーテは、ゆっくりと顔を上げた。
 塔の頂上の部屋から、ゆっくりと、カミーラが姿を現す。
 ブロンズの髪。青い大きな目。完璧すぎるその美貌。
ーー夢?
 その口がゆっくりと笑みを浮かべた瞬間、ゲーテは全ての夢から醒めた。
 死ぬ以上の恐怖。
ーー逃げなければ。
 ふわつく足。ゲーテは必死で階段を駆け下り、そのまま古城の外へと飛び出した。
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登場人物紹介

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

APC 187cm90kg 赤マント

主人公。正義感溢れる好漢。うちに秘めたる野心の塊。研究者として入団したが、錬金術師としての腕前はCランク止まり。武芸に優れている。体格が良く、人から愛され、尊敬される性格。人身掌握がうまいので、幹部候補生になる。クリスティアーネのことが好き。ニーチェのことを親友だと思っているが、嫉妬心も抱いている。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ

ADB 179cm 60kg 赤マント

黄金薔薇十字団に買われた捨て子。CRC団長のお気に入り。純真。研究家気質。真理を探究している。ストレスはうちに秘めるタイプ。騙されることが大嫌い。ゲーテだけを親友だと思っている。同期のクリスティアーネに好かれているが、興味ない。

カミーラ

155cm 40kg 吸血鬼と呼ばれる美女。気付いたらリアルにいたタイプ。はぐれアルカディアン。古城に住み着く。

幻想を見させることができるが下手くそ。

顔も体も大人っぽいが、背だけが低い。コンプレックス。いつも13cmのヒールを履いている。

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