第5話

文字数 1,909文字

 無人の昇降口をそそくさと通り、教室まで廊下を全速力で走っていると、光は高校二年生だから二階で別れた。
 俺は三年C組の教室のドアを勢いよく開けた。

「ただいま!」

 …………

 俺たちよりも足の速い公平がポツンと教室の中央に立っていた。ポカンとしている顔だったが、次第に呆れ顔に変化した。
 学校の先生は、教壇にいるにはいるんだが……席に着いているクラスのみんなは欠席が目立った。

 さすがに、みんな遅刻というわけじゃないな。
 うん。そうだろう。

 いつも遅刻ギリギリ当番は公平だけと決まっていた。

 先生も周りの生徒たちも夜中だというのに、普通に授業が始まった。みんなはどう思っているんだろう。この夜を……。友達の公平や鈴木、橋本も……。普通に授業を受けていた。

 昼休みに公平に聞いていみることにした。

「はあ! なあ、お前。今日に始まったことじゃないだろ?!」
「え……?!」
「ほら、お前。いつも夜景が観える都会が好きなんだって、この前言ってだだろ。それと、屋台も大好きだから、夜のしんみりした祭りは最高だーーーって……今度、一緒に遊びに行こうって、言ってたじゃんか」
「ほえ?!」
「まあ、寝ぼけているのは、わかってるんだ。何たって、お前のおじいちゃんとおばあちゃんが……特にお前たちには良い人だったしな……あまり寝ていないんだろ?」
「うん?!」

 おじいちゃんとおばあちゃんが……一体?
  
「そ、それも大事だが! お、お前! 話し言葉が変だぞ!」
「へ? お、俺? 変か?」
「ああ、その昨日までは不良のような話し言葉使って、俺はいつも怖くて少し引いていた! だが、今日は変だ!」
「そうか? いつもこんな感じだぞ」
「うんにゃ、なんていうか。丁寧な言葉を使っているんだよ。チーッスとかオラーとかも言わないし!」

 そういえば、こいつは不良だった。
 ただ、不良なくせに物知りだったから親しかったんだ。
 けれど、今のこいつは丁寧なところがあって……あれ? 性格が真逆だぞ?!

「ふーん。まあ、後で明日のテストの傾向を教えてくれよ」
「うぎっ! それはお前の役だったろ!」
「え? お前の方こそ。今日はなんか話がかみ合わないな。……まあ、仕方がない。とりあえずは、テストの傾向な」
「……あ、ああ」

 もしやと思って、他の知り合いの性格を調べるため色々と聞いて回ったが……皆、性格が真逆だった……。

 こ・こ・が・影の世界だからか?

 一番、ショックを受けたのは、同じクラスの学校一のマドンナの獅子野(ししや) 恵さんが、憧れていたおしとやかな性格ではなくて、品のない黒ギャルになっていたことだった……。

…… 放課後

「はあ~~。やってられない」
「どうした? さっきからため息ばかりついて?」

 公平が心配してくれている。
 俺は唯一の妹。光の帰りを待つために昇降口にいた。隣には真面目に変化した公平が「最近はここら辺も物騒だからさ」と気さくに一緒に待ってくれていた。

 ため息の原因は二つある。

 一つは学校での楽しみだった。恵さんの姿をもう見れなくなったこと、ちなみに俺は黒ギャル変化した恵さんは好きではない。

 もう一つは、学校が泊めてくれない。
 先生が困るからと追い出されてしまった。

「なんだってんだー! 今日は、どこへ泊りゃあーーいいんだー!!」
「あのさ。俺ん家は?」
「駄目だ! 女の子の光がいる! 兄として! 兄として!」
「わかったよ……じゃあ、獅子野 恵の家は? あいつの家。凄く大きくてさ。この街一番のお金持ちだっていうからさ。頼めば、部屋の一つや二つは貸してもらえるんじゃねえ?」
「……黒ギャル……うっ……眩暈が……」

 眩暈がしたが、俺は別に黒ギャルが嫌いなわけではない。
 恵さんが黒ギャルになったことが大問題だった。
 あの、落ち着いて、しとやかで、陶器のような色白な、いかにも御令嬢のような……。

「ああーーーー!!」
 俺が叫ぶと、後ろの方から女の子の声がした。
「うん? どうしたの?」
 振り向くと、靴箱に靴を入れている獅子野 恵……当の本人がいた。

「あのさ、こいつ泊まるところがないっているからさ。恵さん家に泊めてくれないか?」
「うん。いいよ」
「ああ、良かったな。影洋」
 公平が泊まる場所を代わりに聞いてくれた。
「何故、俺を置いて話が進んでんだ……?」

 俺は恵ちゃんを真っ暗な昇降口で恐る恐る見つめてみた。

 う!!
 途端に気が変わった。

「……ああ、良かったぜーー!! ありがとな!!」
「なに、その間は?」
「いや、なんでもない。あ、妹もいるんだけど、いいかな?」
「別にいいわよ。お部屋いっぱいあるし」
「やったーー!!」
 
 黒ギャルと化した恵ちゃんも、凄く可愛かった。
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