第4話

文字数 1,336文字

 パリッとした背広姿のおじさんが平然とでてきた。こちらを不思議そうに見つめている
「なんですか? あなたたち?」
「ええと、酷い揺れが。いや、地震だったので、大丈夫かなーと……避難勧告はでていませんが、まだ余震の可能性もあるかと……避難した方がいいかなと……」
「え、地震? そんな揺れはなかったな。おーい、裕子。今、地震なんて起きたか?」
 おじさんは後ろを向いて、多分この人の奥さんに地震のことを聞いたようだ。
「え、地震? 何も起きてないわよーーー! きっと、小さい揺れだったのよ!」
 家の奥にいる奥さんも、平然とした声を返してきた。

「大丈夫だよ。何も起きていないよ」
「ええ?! あ、すいませんでした!」
「お騒がせしましたー!」

 俺と光は急いで踵を返すと、一旦家に戻ろうと光が言った。

「あれ? ここって? 確かついさっきまで俺の家があったよな……なあ、光?」
「うん……へ?」

 俺と光はその場で立ち竦んだ。
 二階建てで赤い屋根。築15年で庭が広い俺と光の実家が消えていた。元はおじいちゃんとおばあちゃんが買った新築の家だったけど、去年に二人共隠居生活をするため田舎に引っ越してしまっていた。以後、俺と光の二人暮らしだ。

「うん。さっぱりわからないよな光……」
「家がなくなってる? て、言うか。これからどこに住むのおにいちゃん?」 

 消えた俺の家。
 だけど、地面に落ちている郵便箱の中にある封筒だけが嫌でも目を引いた。郵便箱から飛び出だしている白い封筒は縦50cm横30cmという大きさだった。
 なにかなと思って取り出そうとすると、あることに気が付いた。
 近所の寺田さんに、橋本さん。向井さんとかの家は無事だった。
 普通に立ち並んでいる。
 なんで、俺の家だけが?!

「あれ?」

 それぞれの近所の家には、郵便箱にこれと同じ封筒が箱に入り切らずに飛び出していた。

「うん。開けてみよう……」

 俺の家があった地面に落ちている封筒を開けると、一枚の回覧板が現れた。
 端折ると、この近所の班長からこう書かれている。

「明日の町内会について 午前9時頃から避難訓練があります……避難訓練時。避難用ヘルメットを忘れずにしてください」

 うん……確かに回覧板だね。
 
「おにいちゃん……学校は? 家は? ご飯はーーー!」
「わかった! 光よ! 今日は学校へ泊ろう! さあ、今から登校だ!」
「今から行っても、完全に遅刻よーー! おにいちゃん! それにお風呂はーーー!!」

 俺と光は書統高校まで走ろうとする……が?
 その時、近所の窓が幾つか割れる音が木霊した。
 なんだか不吉な感じはするけれど、

「うん? まあ、今は学校へ行こう。今日の宿探しを優先しないと」

 音だけで、近所はすぐにシンと静まり返った。
 町民もやはり家の外へと一歩も出てこない。

 俺たちの書統高校は、あったはずの自宅から走ると約30分。学校がどうなっているのか、かなり不安だった。
 真っ暗な外灯もない夜道を通り、校門まで林道の登り坂を走っていると、クラスメイトの喜多野 公平が俺たちと同じく校門目指して突っ走っていた。ラッキー! こいつは、いつも遅刻ぎりぎりなんだよな!

 って、ことはまだ間に合うじゃないか!
 学校!
 これで、先生に怒られなくて済む!
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