第11話

文字数 1,960文字

 こうなりゃイチかバチかカウンターを一度にしなければ……。

 大きな踏み込みの音が部屋中に響き渡った!
 三つの大きな影が俺に向かって、一斉に体当たりをしてきた!
 
 俺は再び心影流の構えをし、目を閉じて呼吸を止めた。
 
「そこだーーーーー!!」

 すぐに俺には三つの大きな影の全ての隙が見えた。
 渾身の力で右上段回し蹴り。右膝蹴り。腰を降ろしてのアッパーカットを放った。
 ゴキッと音が三つ鳴った。
 俺の攻撃の全ては瞬間的に全員の影の首を打っていた。

「やった!! どうだ! 見たか! 心影流は最強の守りの技だーーー!!」

………

「ふん! 後ろががら空きだ!」
「がっ!!」

 俺の影が俺を羽交い締めにした。

「なんの! ウラー!」

 俺は背面目掛けて強烈な肘打ちを打った。 

 ゴンッと派手な音がした。

 俺の影が大きくよろけ右頬を抑えて呻いた。
 羽交い締めが解けると、今度は膝蹴りで俺の影の腹部を思い切り打った。

「ぶっ飛べーーーー!!」
 
 鈍い音が辺りに響き、俺の影が吹っ飛ぶと同時に、地下への階段へと一目散に走った。

 地下への階段を降りると、影の世界の右の部屋へと上った。
 そのまま黒い家から出る。

「危なかった……多勢に無勢か……囲まれたらどうしようかと思ったぜ!」

 完璧に大勢に囲まれると、いくら心影流でも不利だった。
 俺は冷や汗とも疲労の汗ともとれる汗を流して、恵さんの家へと向かった。

 真っ暗な道路を桜の花弁が舞っている。
 花弁が地面に敷き詰められているのか、踏んだ感触が心地よかった。

 荒い呼吸も整ってきたら、あることに気が付いた。

「そういえば、山に登るんだよな……」

 俺の家の近辺に登山用の道具を売っている店は一軒だけある。
 俺は進路をホームセンターへと変えた。
 
 この世界では両親には子供はいない。
 俺と光はいないことになっている。
 てかっ、存在していないんだ。
 早く俺の影をなんとかしないといけない気がする。

 あいつめえ、少し俺より強くなっていやがった。
 なんでか、羽交い締めされた時にそう感じた。
 腕の力が半端なかったからだ。
 俺の影も俺の存在を無くそうとしているんだな。

 上を見上げれば、星々が輝く夜の大空が広がる。
 道路の所々から桜の木々が顔を出し、花弁を地へと舞い落としていた。

 黒い家から東へ走ると、家屋の間に挟まっているような場所にあるホームセンターにたどり着いた。

 こじんまりとした個人経営のホームセンターだ。
 昔は親父と光とよく行ってたっけ。

 こんな夜更けに開いているのかと一瞬思って、首をかしげた。
 今、何時だ?

 まあ、入ってみよう。

「いらっしゃーせー」

 殊の外薄ぐらい店内から若い女性店員の声が聞こえた。
 
「すいませーん! 登山道具一式ください! お金は……うぎっ?!」

 そういえば、金がない……。

 家には誰もいないし。
 というか家ないしな。

 うーん。
 どうしようか?

「……?」
 
 暗闇の中でよく見ると、店員は……? クラスメイトの陰キャの杉崎 香だった。
 そういや、しばらくこの店へ来ていなかったけど、ここでバイトしてたんだなあ。

「あはははは。杉崎じゃないか……ここでバイトしてたんだ」
「影洋くんこそ。学校休んで心影山に行くんだって、登山道具一式をこの前買ったんじゃないの? どうしたの? 頭? 大丈夫? 山から落ちて打ちどころが悪かったとか?」
「いや、まだ山には行って……そういえば!!」

 そうだ!!
 俺の影が登山道具一式買って心影山に行ったはず。
 おじいちゃんとおばあちゃんは無事なのか?? 

「なあ、杉崎。この前の俺って、どんな様子だった?」
「? ほんとに打ちどころ悪そうね。別に普通だったわよ」
「じゃあ、ごめん。いつ頃だった?」
「うーんと、三日前よ」
「うぎっ! もう遅いかもな……俺が混乱していなかったら……」
「そうね、早く病院行ったほうがいいわよ」

 陰キャだった杉崎は普通の明るい女の子に変化していた。

「そうだ!! 杉崎! もう一つ聞きたい! 心影山ってどこにあるんだ?」
「多分、あんたがこれから通う病院の傍よ。ここから近いじゃない。心影山って学校の向こう側に聳え立っているから。見てないの学校以外?」
「そうか! ありがとな! じゃあなー!」

 俺は学校の方角へと駆け出した。
 
「お大事にーーー!!」

 ホームセンターから杉崎の声が聞こえた。
 そうか! 影の世界にしか心影山はなかったんだな。
 
 早速、恵さんの家へ行こう!
 登山道具一式どうしようか?
 心影山ってなんか険しい感じがするんですけど……。

 だが、恵さんの家につくと何もかも解決していた。
 恵さんの屋敷の大きな扉を開けると、

「お帰りなさいな。影洋ちゃん」
「お帰り」

 うぎっ?!
 そこには、ぴんぴんとしたおじいちゃんとおばあちゃんがいた……。
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