第8話 近所を調べてみよう

文字数 1,893文字

「おにいちゃんー! お腹空いたーー!!」
「ああ、帰るか……」

 あれ? 何かが気になる。
 影は一体どこへ帰るんだ?
 町内会から帰る途中で影が逃げていった方にあったのって……確か、薄暗い黒い家のようだったっけ。

 そこは、表の世界では……教会だったんだ。

 ここが裏の世界。つまり、影の世界だとすると……教会が天国へ祈る場所とは逆の魔界か地獄へ祈る場所になっているんじゃ……。

 光は近づけない方がいいな。
 うん。

 魔界や地獄?
 ええと……確かおばあちゃんが昔……。

「おにいちゃーーん! 早く帰ろう! 傘が止んだよ!!」
「……今、考え中……だったけど、忘れてしまったーーーー!!」

 もういいや。
 俺も腹減った。
 恵さんの屋敷へまた泊めてもらおうかな。
 好きに使って良いって言っているからな。
 今日はお言葉に甘えよう。

 あ、そうだ!
 おじいちゃんとおばあちゃんは……?

 一体どうしたのだろう?

 やっぱり……影に……?

 うーん……。

 あ、そうだ!
 恵さんに聞いてみよう。

 光と闇が覆う坂道をトボトボと上がる。
 それにしても、恵さんが知っているといいなあ。
 ここはいつも真っ暗な夜だけなんだな……きっと。
 朝は来るのかな?

 俺が考え事をしていると。
「おにいちゃーーん! また降ってきた!!」

 ガサガサと真っ暗な空が騒がしい。
 うぎっ! また傘が降ってきたーーーー!!
 そういえば、今日は時々傘が降るんだっけかーーー!!

 ヘルメットを被り駆け足で、恵さんの屋敷へと向かう。
 光を空から降る傘から守るために俺は歩調を合わせた。
 うん?
 公平の奴も恵さんの屋敷へと頭を抱えて走っていた。

 どうしたのかと公平の傍に寄った。
「どうしたんだ! 公平!」
「いやー、……家出さ……」

…………

 広大な芝生を通り抜けると、公平が恵さんに頭を下げている。
 俺と光は使用人にヘルメットを返して、ホットウーロン茶を飲んでいた。

「すまん! 親父と進路のことでまた口論になった!! いつものことだが匿ってくれ!! きっと、親父が……親父が……裸足で追いかけて来る!!」 
「うん。いいよー」
 恵さんは眉一つ動かさないで、気怠げに頷いた。
「また、地下の物置でいい?」
「う、ありがとな。持つべきものは女友達だよ!」
「いや別に、てゆうかまだ進路決まってないの?」
「ああ……親父の仕事継ぎたくないんだよ。でも、他に何しようかなと思うとなあ……」
「あ、そう。物置は好きに使って……」
 黒ギャル化した恵さんは、おおらかな人になっていた。
 表の世界では、恵さんはかなり人には厳しい性格なところがあって、人と距離を取っているところがあった。そして、見目麗しい学級委員をしていた。

 使用人たちがパタパタと地下へと向かう。
 きっと、物置の整理整頓だろう。
 骨董品を見回しながら二階へ向かう途中、俺は天井のシャンデリアが気になった。
 そういうば、恵さんはこんなお金持ちだったけか?
 表の世界の恵さんの家は知らないが……。

 ひょっとして、表の世界の恵さんは貧乏??


 フカフカ、フカフカ……。 
 
 チュン、チュン……。

「ほにいちゃーん! 夜だよーー!! 学校行こう!!」
「ふがっ!」

 俺は表の世界とは逆に妹に起こされていた。
 枕の角で……。
 投げたのは言うまでもない妹だ。

 夜風が涼しいなあ……。

 それにしても、また昨日の夕食も豪勢だったな。
 豪華な花が壁に活けられた長方形のテーブルに公平も加わり、恵さんと恵さんのおじさんと食べた。今回の夕食はもっともヨーロッパでは米を消費するといわれているポルトガル料理だった。ガルシア・デ・レセンデ、ソラマメのソリューソ添えにパカリャウをたくさん食べてタコやイカも楽しめた。恵さんのおじさんはまたクリュグをがぶがぶ飲んでいた。

 この屋敷では栄養失調はないな。うん。

 自室から一階に降りようとすると、踊り場に恵さんがいた。
 寝ぼけ眼で気怠げに階段を降りようとしている。

 そこで、恵さんにおじいちゃんとおばあちゃんのことを聞いた。
 昨日は公平の奴が大変だったので、聞きそびれていたんだ。

「なあ、恵さん。俺のおじいちゃんとおばあちゃんって? 一体どうなったんだ?」
「ふあ? それ、私に聞く~? 影洋くんのおじいちゃんとおばあちゃんって、影斬りの刃っていうナイフを探しに心影山に行ったんだって。この前。影洋くんが言っていたじゃん。そんで、その山で落盤事故が起きたって……」
「うぎっ?!」
「もーうっ。影洋くん! 記憶喪失~? あんた今週はその山に旅に行くんだって言ってなかった?」
「……」

 影の世界の俺って一体?

 心影山ってどこ?
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