第13話

文字数 2,851文字

 と、突然。
 ゾワリと来た。

「おにいちゃん! あれ!」

 見ると、影が何体か山の上の方から降りてきた。
 その中には俺の影もいる。

「まずーい! 妹よ! どこかに隠れてろ!」
「ほいーー!」

 妹の光が近くの岩陰に隠れると、俺は心影流の構えをして様子を窺った。

 俺の影たちがこちらにゆっくりと歩いてくる。
 当然、こちらに気が付いている。
 あ、そうか!
 影なら体が通り抜けるから岩から影斬りの刃を取り出せるはずだ!
 影斬りの刃が俺の影に奪われたらかなりまずいぞ!!

 でも、どうして?
 
 ここに俺たちがいるって、わかったんだろう?
 ひょっとして、尾行か?
 でも、どこから?

 うーん……?
 わからん!

「おにいちゃん! あれ!」
「うぎっ!!」

 よく見ると、俺の影が従えている影に刀を持った奴が何体も混じっていた。
 ええーい!
 考えてもしょうがねえええ!!
 今は、この窮地を脱しないと!!

 心影流は最強の守りの技だってここでも証明してやる!!

 でも、絶体絶命かもな……。
 妹もいるし……。
 
「おにいちゃん……逃げたら?」
「いや、ダメだ! 影斬りの刃が……」
「うーん、たぶん影は知らないんじゃないかな?」
「……でもなあ。影が影斬りの刃を見つけてしまったら?」
「うーん……」

 徐々にこっちへ近づいてくる影たちに俺は冷や汗を掻いた。
 
「あ、こんなところにいた! 病院に行っていないの!」

 後ろを振り向くと、夜の暗闇の中から……あのホームセンターの杉崎がいた。
  
「うぎっ! 杉崎? なんでここに?」

 黒っぽい服装の杉崎は、なんでか大きなリュックを背負い。大きなポッドを持っている。

「この山に登った私のお父さんが非常食忘れたって。今お腹空いてるからって言うから……。今朝、携帯に電話かかてきたのよ。それより病院はあっちよ影洋くん……大丈夫?」
「うぎっ! 案外世話焼きな!!」

 陰キャだった杉崎は明るい世話焼きの性格に変化している。


「てっ、そんなことはどうでもいいーーー!! 今、俺は影の集団に襲われてるんだ!!」

 見ると、あれ? 影の集団は……。
 忽然と姿を消していた……。

 なんで??

 逃げた??

 ひょっとして、杉崎が怖い???
 
 こちらにニッコリ笑った杉崎は意外なことを言った。
 
「お腹空いてない? 非常食とか持って来た? 何か食べるものあげるよ」

 うぎっ! なんですとーーーー?!
 あのいつも教室の物陰に隠れていた陰キャの杉崎が世話焼きですっごい優しい!
 う、陰キャでない杉崎が笑うと可愛いな。と、少し思ってしまった。
 
 そんなことより!!
 今すぐ影がなんで逃げたか考えなければ!!

 うーん……。

「杉崎? 少し後ろを向いてくれ……」
「え? いいけど。なんで?」
 
 俺の感が正しければ……。

 後ろを向いた杉崎の黒いコートの下を見た。辺りは真っ暗な闇だが……。

 あった!
 こりゃ、大物だ!!
 この分だと、公平の奴や恵さんも……。

 …………

「おにいちゃん! 頑張れ! 頑張れ!」
「うー、ふあーい……」

 俺は徹夜をして杉崎の持っていた登山道具一式の中のストックで岩面を掘っていた。
 本来は体のバランスを取るのに使うのだけど……。

 いくら掘ってもストックが壊れないようにと手加減しているから。なかなか掘れない……。

 他のレインウェアやカメラ、水筒などは使えないのだから仕方がない。
 いつになっても真っ暗な山でひたすら掘り続けていると……。
 
 やった!
 やったぞー!
 掘れたーーー!!

 岩面に浮き出た影斬りの刃は、ナイフの形をした不気味な形状の武器だった。まるで、炎が豪快にメラメラと燃え盛っているような刀身だった。

「さすが! おにいちゃーーん!」
「おー、ようやく取れたの? そのナイフ何に使うの?」

 我が妹と杉崎も徹夜をしてくれていた。
 これで、影たちとの戦いで相手にダメージを与えられるはずだ。

 あ、そうだ! これが女神さまが言っていた仲間を探せだ!!
 杉崎の影は凄い大男だったんだ。
 ほんとレスラー並だ。
 
 俺と杉崎の大男が協力すれば……それに公平や恵さんの影も……きっと、影の王国を滅ぼせられるはずだ。

「おにいちゃん! お風呂! 恵さん家に帰ろ!」
「おう!」
「え、私のお父さんは?」
「いんや、ここは危険だ……君のお父さんも帰っているかも知れない」

 三人で山を下りた。
 荒涼として小石だらけの心影山は、どこも真っ暗だったが、頂上付近に明かりが見えた。
 
 きっと、まさかの杉崎のおじさんか俺の影たちだろう。
 
「そういえば、影洋くん。あなたの影って……あれ? あなたの妹さんの影もないわよね」
「ああ、俺と妹の影はないんだ。それが女神さまから試練だといわれてるんだよなあ。多分……」
「ほい。私の影もないです。試練です」
 
 心影山からのトンネル内で、突然四方からライトで照らされた。
 強い光に目を細めて周囲を見ると、いつの間にか俺たちは囲まれている。
 トンネル内は真っ暗だから今まで気がつかなかったんだ!  

 それの光は右と左の自動車のライトだった。
 光で露わになった影のシルエットの中には、俺の影はいない。だけど、全員が全員斧のような影を持つ武装した大男たちだった。

 照射されたライトの中央に立っている俺たちは格好の餌食だ!

「うぎっ!」
「きゃ!」
「ぶー!」

 退路もない!
 隙もない!
 助っ人も多分いない!

 では、どうするか!

 俺は即座に踏み込んだ。
 一人の斧のような影を持つ大男の間へ。

 すかさず大男の影の腹に二発膝蹴りを打った。
 大男がもんどりうって倒れた。
 けれど、すぐに後ろから杉崎の悲鳴が聞こえた。

 が。

 ゴキッ!!

 鈍い音と共に自動車のライトに照らされているのは、地面に倒れた二人の大男の影しかなかった。

 なん???
 
「うっぎーーー!! 光!!」

 なんでかー! 我が妹が心影流の構えをして大男の顎に強烈な肘打ちを打っている。

「なん?! ……?」
「おにいちゃん! 私も戦えるよ!! これがおじいちゃん直伝の心影流!!」
  
 続けて妹は、遠くの大男の間へと突っ込み。頬と顎と足、そして腹部を主に攻撃していた。

 技の切れは俺の心影流よりも洗練されている。

 そういえば……おばあちゃんよりおじいちゃんの方が強かったっけ? 
  
 あっという間に三人の大男を打ち倒している妹は、こちらにグッと拳を握って勝利をアピールしている。

 なんの! 俺も負けてられない!
 一瞬で、四人の大男の側頭葉に右回し蹴りをお見舞いした。

「おにいちゃん! さっすが!」
「おうよ!!」

 武装した大男を全員倒すと、杉崎は当然のように気を失って倒れていた。

「うぎっ、雨ーー?」
「ほにー?」

 そういえば、今日は天気予報でにわか雨が時々降るんだった。
 トンネル内の天井から激しい雨音が聞こえる。
 気を失っている杉崎を背負うと、トンネルを急いで抜けようとした。

 
 なんだかんだでようやく下山した俺たちは、恵さんの屋敷へとダッシュで向かう。
 だって、杉崎の家を知らないからだ。
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