第16話

文字数 1,834文字

「ほひ? おにいちゃんが二人!?」
「光よ! お前は教会の中か、俺の後ろで、じっとしてろ!」

 俺は背後から杉崎、恵さん、そして公平の影を出現させた。
 思った通りだった。
 杉崎の影はレスラー風の体格。恵さんは竹刀か刀を構えた影、公平は空手の構えをする影だった。
 
「よっしゃー、このまま邪魔する者は排除して俺の家まで突っ走ってやるーーーぞ!!」
「ほい!」
「……」

 我が妹の上段回し蹴りが迫り来る影にぶち当たった。
 敵の影がぶっ倒れた。

「……あの、妹さん……さっき、後ろに居てって確かに言ったよね……」
「おにいちゃん! 私も戦うよ!」
 
 我が妹は駆け出した。
 その方角だけは言った通りの俺の家。
 次から次へと襲ってくる影を薙ぎ倒していくというのは、言った覚えはない!

「ウラ―――!!」
 
 公平の影と俺の回し蹴りが敵の影の側面を抉った。
 恵さんの影が、それは木刀だった。は、影を一刀両断して昏倒させた。
 杉崎の影が派手なバックドロップを決める。
 
 一通り敵の影を倒すと、俺の影が真っ正面で心影流を構えていた。
 このまま突っ切ろうと思ったのだが、俺の影はなんとしても俺たちの邪魔をしたいのだろう。
 
 心影流は最強の守りの技だ。
 このまま近づくのは危ない。

 そうだ!
 影斬りの刃!
 でも、どうやって使うんだ??

 まあ、いっか!
 今度は俺の方から仕掛けてやる!!
 
「うりゃーーー!!」
「はんっ!」

 俺の影が俺の正拳突きを左手で弾き。
 すぐさま膝蹴りを放つ。

「ぶっ飛べえええーーー!!」 
「なんの! うりゃ!」

 俺は影の膝蹴りを左に体を一回転して躱すと、同時に肘打ちを俺の影の右頬に見舞った。だが、俺の影が難なく躱す。

 だけど……。

 こっちには二人いるんだ!
 心影流の使い手が!!
 
「トォ――――!!」

 我が妹が俺の影の懐に頭から突っ込んで、そのまま身を低くして脇腹に肘打ちをぶち当てた。
 瞬間的に俺も影の顔面に上段蹴りを二発打つ。
 俺の影が前に倒れた。

「よっしゃー、光よ! このまま俺たちの家まで一気に走るぞ!」
「ほい!」

 そうだ……。
 わかったぞ。
 影斬りの刃の使い方って……。

「うりゃ!」

 俺は影斬りの刃で俺の影の倒れている地面を円を描くように斬った。
 音もなく地面に大きな穴ができた。 

「うぎっ!」

 俺の影が叫び声と共にその穴に落ちていった。 
 
「ほ、ほにいちゃん? なん???」
「大丈夫だ我が妹よ! これが影斬りの刃の正しい使い方なんだ! この刃は地面を斬って影を下に埋められるんだよ……。多分な! だから、心影山では岩面のあんなところに埋まっていたんだよ。きっと、そうだよ」
「ほにいちゃん? さっすが! ……ほにいちゃん……? 影が死んだら本体のほにいちゃんは無事じゃないんじゃ……?」
「うぎっ! とっても不吉な事を言うなー! 多分、今俺はピンピンしているから大丈夫だ! それじゃ、行こうか」  
 
 俺は妹を連れて、俺の家に走った。

 恵さんたちの影は今も影の集団と戦っていた。

 日の当たる道路を走っていると、汗を掻いてしまった。
 片腕で拭うと、とあることに気が付いた。

「おにいちゃんは、ここで影斬りの刃で地面にかなり大きな穴を掘っている。いや、斬っている……か? 光は光の影をここまでおびきよせてくれ……」
「ほひ? うん、わかった。……あ、そうか。私の影も家にいるんだよね。了解。了解。ほひいちゃん。ここで待っててすぐ戻る」
「よし、任せたぞ! あ、くれぐれも攻撃しちゃ駄目だぞ!」  
 
 我が妹は返事もせずに家の方角へ駆け出した。
 俺は影斬りの刃で道路の中央と端と端。至る所に大きな穴を斬って作った。
 やっぱり、道路自体はなんともない。
 ただ、斬った道路は真っ暗な黒い色になるだけだ。
 足で黒い色のところを踏んでも固いアスファルトの感触だった。

 その時。

 ドゴン!!
 という派手な音と共に我が妹の影がこちらにふっ飛んできた。

「うぎっ! 人選間違えたーーー!!」

 難なく?
 我が妹の影が影斬りの刃で斬った真っ暗な穴へと落ちていった。
 
 俺は急いで俺の家へと向かった。
 
 けれど、俺の家には当然だが玉座や王室なんてなかった。

「一体? これからどうするんだー!?」
「ほにいちゃん? 何もないよ……?」 

 妹が花柄模様の壁のキッチンテーブルを前に佇んでいた。
 キッチンテーブルの上には二人分の朝食がポツンとあるだけだった。

 影の王国って?
 一体?
 どこだ……?
 どこにあるんだ……?
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