第57話

文字数 809文字

 私の心配をよそに学校ではプログラムが着々と行われていく。

「早苗さん、一緒に練習しようよ!」

「はい……お願いします」

 空花さんは、いつもと変わりがない。私はそれだけで満足するべきだと自分に言い聞かせていた。

 空花さんは流石だ。前の学校ではどの様な演劇をしていたのだろうか。経験者と素人ではこんなに違いが出るものなのだろうか。私は彼女の演技に追いつくのにやっとだった。

「空花さん、私にも教えてください」

「いいよー、ここの台詞はね、アクセントを重視して強調させることかな」

「流石、経験者ですね……。頼りになるなあ。ところで私は声優を目指しているんですが、見込みなんかありますかね?」

「う、うん。私もプロって訳じゃないから、今まで習ってきた助言みたいなことしか出来ないよ。でも、才能って後でいくらでも付くものなんじゃないのかな」

「えー、そんなご謙遜を。空花さんの腕前はもう誰もが認めていますって!」

 彼女の演技は格好いい声を出せるだけあって、同性からもてはやされていた。男子たちからも、一目置かれている程だ。どうしたらそんな透き通った声が出せるのか? 常にクラスメイトから質問攻めに合っているのだった。

「早苗さん、それじゃ台詞合わせしようか。今日の題材はシェイクスピアだね。この人の小説は演劇向けって言われているんだ。イギリスを代表する演劇家で劇の作品をたくさん創作しているんだよ」

「そうなんですね、私も家に帰って勉強してみます」

「それがいいよ。私は彼の作品は全巻持っているから、よかったら貸してあげるね」

「うん……ありがとう」

 私は演劇については素人だから、彼女の提案にはとても助かった。でも、私は何か不安な様なものを感じていた。これは一体何なのだろう?

 ……どうしてガブは急に居なくなったのかな。私が何か悪いことでもしたのだろうか。いつも側に居てくれた天使に聞いてみたい気持ちは山々だったのだが、その願いは叶わなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み