第46話

文字数 832文字

 教室の中には既に数人の受講生たちが集まっていた。

 私は視線を下に落とし、地面に座り込んでしまう。

 周りの受講者が全員集まるまでそれは続き、私は緊張のあまり、声が出せなくなってしまった。

 少し時間が経ったのだろうか……。ざわざわと周りが騒がしくなってくる。やがて一人の恰幅のいい女性が入ってきた。

「はい、みなさん静かにしてください」

 ざわざわとした雑音がやがて沈黙に変わる。

「はじめまして、私は城之内という講師です。今日からこのクラスの講師を務めさせて頂きます。しおりでお伝えしてある通り、既にお分かりだとは思いますが、一応プロです」

「では、これから皆さんに自己紹介をして貰います。よろしくお願いします」

「よろしくおねがいしますー!」

 クラスの受講生たちが一斉に声を上げる。

 いよいよか……。果たしてうまくやれるだろうか。

 私の目にはその人の第一印象は割と普通の人のように映った。

 第一印象は大事だから、精一杯頑張ろう。

(早苗! がんばって!)

 何人かの人が自己紹介と朗読を進めていく。

 私の順番が近づいて来る。ドキドキとひたすら胸の動悸が鳴りっぱなしだった。自分はこの中では最年少。大人に混じって自己紹介するなんて……。私は段々と今の状況というのが普通にありえない状況なのではないのか。と思えて来てしまった……。いや、そもそもここは普通ではない世界だったのだ。

 周りの、私はプロになりたい! という熱意のような雰囲気がぴりぴりと伝わってくる。

 その空気に圧倒された私は吐きそうになった。

 私はばっと立ち上がる。

「……すみません」

「……先生、ちょっとお手洗いに行って来ても良いですか?」

「はい、どうぞ。いいですよ」

 私は壁隅っこを這うようにして教室から退出した。

 ……どうしよう。逃げ出したい気分になってきた。教室から出た途端、妙な生暖かい空気が自分を包む。もうダメだ。ここから逃げよう……。そう決意したとき、ガブが心に語りかけてきた。

((早苗! 大丈夫だから))
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