第74話

文字数 1,384文字

 ――。

「あなたは私の事が見えるの?」

 そこは、ワンルームくらいの白い部屋で、物らしい物がない質素な空間だった。

 まだ幼い少女が、体育座りで、私に問いかけてくる。

「あなたは誰?」

「……私はまだ成仏できていないの。だからここで勉強しているのよ」

 成仏できていない?

「そこはどこなの?」早苗はさも不思議そうにその少女に問いかけた。

「ここは霊界だよ。まだ天国や地獄に行先が決まっていない霊たちが、彼岸へ行くために修行をする世界なの」

 その少女はニコニコと微笑むように、私のことを見つめて、親しげに話しかけてくる。

「彼岸? 極楽に行くために修行をしているの?」

「うん、ここは早苗の世界では、三途の川と呼ばれているよ。この世と彼岸を挟んで三途の川。実際学校もあるし、宗教的施設も整ってる。教会やお寺なんかもあるんだよ」

「私は宗教が苦手だったから、極楽に行くことを選んだの。ここで成仏するつもりなのデス」

「早苗さんは、神の子供でしょう? 天使になるんだよね? カッコイイなあ」

「それではあなたは、幽霊なの?」

 私はついデリカシーのない質問をしてしまった。訂正しようとしたが、時は既に遅し。

「ひどいし! 幽霊だって人間と変わらないよ」

「足だってあるよ、ほら」

「霊界だって、地球とそんなに変わらないよ。美味しい食べ物だってあるし、地上の人の暮らしなんかいつでも覗ける。気に入った人間にちょっかいを出す霊なんかもいるけど、そういう霊って最低だと思う。私は……」

「精神的に幼い霊は、人間に悪さをするの。もう動物の霊だね。そういう霊は地獄に落ちるよ、きっと。ザ・ゾンビって感じ」

「私もここに来たばかりで、よく知らないんだけどね。霊的なモノを見たり聴いたりすると霊がちょっかい出してくるのよ。もう無法地帯。だからそういうものは見ない方がいいよ」

「ま、私は人ができてるから、そんなことはしないけどね!」

 私は素直に思った疑問を口に出す。

「これは夢? あなたは本当に存在しているの?」

 私はこの状況が理解できないでいた。ここはどこなのだろう。夢の中? 確か、試練が終わってから、疲れてすぐに眠りについた気がする。そしてこの子は? 私に何か用でもあるのだろうか……?

「早苗さんが今考えていること。私が代わりに言ってあげる。私は早苗さんにアドバイスしたいだけ。守ってあげるなんておこがましい気持ちは全然ないよ。ただ、霊界から悪い存在が早苗さんに行かないようにその方法を教えたいだけなのでありマス!」

「ありがとう……とても嬉しいわ。ただどうして、私の所に来ようと思ったの?」

 その少女は一瞬照れくさそうにしながら、話してくれた。

「うん、早苗さんは霊の友達がいないでしょう? だから私がなってあげようと思ったの。早苗さんにはガブリエ……じゃなかった……。ガブが、早苗さんを守護して守ってくれているけど、友達が少ないから、これから現実の世界で役に立ってあげたいの。ダメかな?」

 私は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてとっさに答えた。

「そ、そんな。私でよければ喜んで!」

「ありがとう! 早苗さん! 早苗さんの友達、第一号だ! わーい」

「あ、私の名前は、トリエ。コードネームみたいなもの! 霊は人には実名出しちゃいけないって決まりがあってね? 人が混乱しちゃうからなんだって!」

「早苗さん、これからよろしくね!」
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