第79話

文字数 968文字

 秋の公園は、ほのかな哀愁が漂い、どこか美しく感じた。赤い木の葉が、普段やる気のない、私のやる気を上げてくれているかの様だ。私は落ち葉を踏みしめる様にして、走る。1.2㎞のこのコースを踏破するのは今でも大変だ。赤色で包まれた世界を見物しながら、私はとあることを思っていた。

 私たちの住むこの世界は、一体どこに向かおうとしているのだろうか。

 同じコースをぐるぐると廻ることが、私たちの仕事なのだろうか。

 この箱庭の様な世界を生き抜く為に必要なこととは一体何?

(この世界はね、滅びてしまうのよ)

 以前ガブに言われたことを思い出す。

 つまり、この箱庭の様な世界は偽物であって、作り物だということなの? 私たちにこの世界に仮住まいを命じられた、神様のお計らいという奴なのだろうか。

 コースを走り終えた私は、顔を地面に伏せて、息継ぎを何度も行う。

 この世界はどこか虚しい。

 私の本来居るべきところは、もっと素晴らしい場所のはずなんだ。

 きっと、今は見えない戦争が起こっているのだろう。だから、ここに疎開していなさい。

 神様にそう言われている気がした。

 ――。

 いつものトレーニングを終えて、家に帰る準備をした。帰りに教会でも寄ってみようか。勉強道具を持って来ておいて良かった。

 ジャージ姿のまま、電車に乗った私は、静かな車輪の音と共に、眠ってしまった。季節は急ぐように変わろうとしている。

 四季の様に生まれ変わりを繰り返して、人もどんどん強くなって行くんだ。

 桜上水駅の改札を出て、教会に到着した私は出会い頭、雫さんに挨拶を交わした。

「早苗ちゃん、いらっしゃい。久しぶりだね、外は寒かったでしょう。早く部屋に入って暖まってね」

 雫さんはいつもの様に笑顔を見せてくれた。私は聞きたかったことを聞いてみることにした。

「空花さん……最近来ていないみたいだけれど、何か聞いていませんか? 私、心配で……」

「空花ちゃん? そう、最近教会にも来ていないみたいなのよ。でも心配しないで。あの子のことだから、そのうちひょっこりと顔を見せてくれると思うから」

「はい、そうだと嬉しいのですけれど」

 まあ、今は気にせず勉強を頑張ろう。雫さんの言うとおり、そのうち顔を見せてくれるだろうから、今は前に進むことだけを考えるんだ。

 心の世界だけならば人は前に進めるのだから。
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