第86話

文字数 865文字

「早苗さん……素敵すぎる……」

 空花は素直にその友人の変貌振りに感動していた。特に感動したのはその勇気。まさかあの家に閉じこもりがちだった少女がここまでイメージチェンジをすることができるとは思わなかった。一体どのような心境の変化があったのだろうか?

 白いワンピースに落ち着いた暗めのブロンドの髪色。空花には西洋人の……例えようがなかったが、いわゆる天使のようにも見えていた。

 スタバで待ち合せた二人はいつものようにコーヒーを注文し店内の奥へと進む。

 すると私の身に不思議な出来事が起こる。

(私よりもかわいい……)

 ??

 私の耳にどこかでそっと囁く声が聴こえたのだ。風のように通り過ぎた声……この声はどこから聞こえたのだろう。

(ガブ? これは一体……)

 私は無意識の内にガブに尋ねる。するといつものように答えてくれた。

(早苗……これは空花ちゃんがいつも思っている心の声よ)

 えっ!?

 私はそのことを受け入れるまでに一分以上の時間を必要とした。

(そんな……!! これが、この声が、空花さんの心の声? 一体どうして)

(早苗さん、ひょっとして恋人でもできた……?)

「そんな訳ないです!!」

「えっ?」

「さ、早苗さん? ど、どうかしたの?」

 空花さんが不思議そうな目をしてこちらを見つめてくる。

 その時、急に周りがざわざわと騒ぎ出した。

(間違いないこの子だ!)

(おい! ここに例の子がいるぞ!)

 するとガブの姿が神々しく変容し、その霊たちを退けようと一喝する。

(この子に近づくな! この子はお前たちが触れて良いような子供ではない!)

 そこでその存在は姿を消した。

(ガ、ガブ? 今のは……?)

(早苗、空花ちゃんのことは気にしないで。そろそろここから出ましょう)

(そんな……こんなところでお別れしたら、空花さん、絶対に変に思うに決まっているじゃない!)

 気づかれてしまった……とガブは言う。

 一体何に? 私は一滴の涙を地面に零した。

「ごめんね、今日はこれで帰る……」

 コーヒーを飲み干さないまま、カップを置いて、私は店の外へと小走りで出て行った。
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