第40話

文字数 776文字

 ――。

 夢を見ることもなく、あまりよく眠ることができなかった。

 疲れの抜けきれない体を引っ張って、洗面所へと向かう。

 目に隈ができていた。歯を磨いたあと、スキンケアを使い、紫外線予防をする。今日は、トーストと目玉焼きだけで朝食を済ませ、眠気覚ましにホットコーヒーを飲んだ。

 私は緊張した面持ちで外を出て、電車に乗り、学校の面接会場へと向かった。

 さっきから胸の鼓動が止まらない。こんなに緊張するものだなんて……。自分のメンタルの弱さが信じられなかった。

 これは、高校の面接ではないんだから……と自分を説得させる。そう、趣味で通う学校の面接なんだ……。私はそう自分に言い聞かせる。

(早苗、そんなに緊張しないで……。私がずっと側にいるからね)

(うん、ガブ。ありがとう)

 でもやっぱり緊張する。私はいつからこんなにも、人が怖くなったのか。もしかしたら対人恐怖症の一歩手前なのかもしれない。

(ガブ……。もし、面接がうまくいかなかったらどうしよう)

(早苗はこういう外的な経験がないから仕方ないの。でもね、よくしらない人というのはそれほど早苗のことを見ていないの。相手も仕事なんだから、そんなに考えてはいないのよ)

(はい、それはわかります。でも、もし失敗したらどうしようかと思って)

(早苗に魔法を教えてあげる……緊張したときは、人と言う字を手のひらに何回も書いて飲み込んでみて。そうしたら不思議と気分が落ち着くものなのよ)

 私はガブの言うとおりにした。手のひらを指で何度もなぞって口にあてがう。

(確かに落ち着きます……これは一体どういう意味があるの?)

(これはね、相手はただの人にすぎないという意味。魔物ではないの。だから怖くもなんともないという意味があるのよ)

(なるほど……相手はただの人……)

 本当に怖いものは別にあるのかもしれない。私は少しだけ勇気がでた。
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