待雪草 1 (6)

文字数 310文字

「今、履歴書を持ってる?」
 奏凪は肩にさげていたカバンから紙切れを出した。
 矩は受け取りながら、白々とした紙面を眺める。

 奏凪の履歴書を見て、のぞむとの差を実感した。都内の有名大学卒で、幼い頃から習い事をたくさんしてきたのぞむとは大違いだった。
 奏凪は中学生になってから桂木家の籍に入ったから、のぞむと違うのは当然だが、姉妹なのにと思わざるをえない。
 それは奏凪の両親ものぞむも、誰一人として奏凪を気づかう者がいなかったからだ。

 うつむいてしまう奏凪を見下ろしながら、矩の胸は疼いた。
「これ、預かるね。明日上司に見せるよ。それから連絡する」
 奏凪は顔を上げた。しばらく何かを迷っているようだったが、黙って深く頭を下げた。
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登場人物紹介

加賀美 朔 (かがみ さく)

他人に興味がなく、感情というものを持ち合わせていない。

人に言えない秘密を抱えている。

自動車整備士。

桂木 奏凪 (かつらぎ そな)

姉に虐待を受け続け、逃げ出した先で朔に出会う。

そのまま朔のアパートに住みつく。

桂木 のぞむ

奏凪の血のつながりのない姉。

地元でも評判の美人だが、近寄りがたい雰囲気を持つ。

倉沢 矩 (くらさわ ただし)

優等生で、かわいそうなものを放っとけない性格。

のぞむの幼なじみで、短大の図書館司書。

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