虫すだく 4 (6)

文字数 406文字

「この間高速で大事故があっただろ? そのご遺族らしいよ」
 二人が行ってしまってから、火葬炉から立ち昇る煙を見上げていた矩が口を開いた。
 のぞむは驚いた顔を矩に向ける。矩がよその告別式の事情を知ってるなんて。
「大人たちが噂してたよ、事故を起こした運転手はあの事件の関係者だからね」
「へえ……」
 気のない返事をもらした。
「興味なさそうだね」
 矩は苦笑した。

 本当に興味がなかった。
 全国を揺るがした大事件であるが、のぞむには高速道路建設とか旧石器時代の遺跡とか、どうでもよかった。

「でもあの子には興味があるんだろ?」
「そお?」
「だって見とれてたじゃないか」
「そうかしら……」
 少年の感情がうかがえない顔をぼんやりと眺めただけだった。
 家族が死んだのに、平然と歩いていく少年が不思議だった。

 また、視界が歪んだ。
 生温かい滴は、今度は頬を降りていく。
 雨粒だと思っていたのは涙だったのだと、のぞむはようやく気がついた。
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登場人物紹介

加賀美 朔 (かがみ さく)

他人に興味がなく、感情というものを持ち合わせていない。

人に言えない秘密を抱えている。

自動車整備士。

桂木 奏凪 (かつらぎ そな)

姉に虐待を受け続け、逃げ出した先で朔に出会う。

そのまま朔のアパートに住みつく。

桂木 のぞむ

奏凪の血のつながりのない姉。

地元でも評判の美人だが、近寄りがたい雰囲気を持つ。

倉沢 矩 (くらさわ ただし)

優等生で、かわいそうなものを放っとけない性格。

のぞむの幼なじみで、短大の図書館司書。

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