虫すだく 2 (2)
文字数 879文字
「いくらまともだって、明日運動会で鉢巻が必要だってことをお嬢様からうかがってなければ、わかるわけないでしょ! 私はまともだけど、超能力者じゃないんです!」
「もういいから! 言った言わないなんて、もうどうでもいい! ここであーだこーだ言ってる暇はない! さっさと買ってくるか作るかしなさい!」
「だから! 何度も言わせないでください! 生地がないって言ってるでしょ! 手芸屋もスポーツ店ももう閉まっています!」
のぞむは身をひるがえした。
井上はニヤリと笑う。しょせん子供が大人に勝てるわけがない。
言い返せなくなって逃げたのだ。
のぞむの言葉が正しいことを、井上は百も承知だった。
モウロクなんてしていない。
一ヶ月も前から何回も聞かされていて、耳にタコができている。
はっきり覚えている。
最初から困らせるために鉢巻を買わなかったし、作らなかったのだ。
子供のくせに可愛げがなくて生意気で傲慢。小学生のくせに人に優劣をつけ、雇われている者を自分より下だと見下し、顎で使おうとする。
聡く、頭の回転が速く、キレもいいから、井上の痛いところを鋭く突いてくる。
小学生相手に何度も言い負かされそうになった。その度に嘘やうわべだけの言いわけを並べ、おまえが悪いのだと言いはり、徹底的につっぱねる。
賢くて理詰めで向かってくる相手は、不条理なことを言われたりされたりすることがなにより神経にさわり、いらだつことを、井上は十分に承知していた。
(学校で恥をかけばいい!)
井上は細い目をさらに細め、危険な色を光らせる。
のぞむに対する感情が嫌いという域を超えていた。
憎悪しかない。
ところが。
のぞむが足音も荒く戻ってきたかと思うと、赤い布を井上の足元に叩きつけた。
「ほら、材料もあるじゃない! どこに目をつけてるの? そんなにモウロクしてちゃ、もう仕事ができないよね? 退職したらどう? 私はぜんっぜんかまわない。むしろありがたい」
ありがたいと言った時の声音は、小学生のものとは思えないくらい、井上の背筋を凍らせるものがあった。だからかえって井上を意固地にさせた。
「もういいから! 言った言わないなんて、もうどうでもいい! ここであーだこーだ言ってる暇はない! さっさと買ってくるか作るかしなさい!」
「だから! 何度も言わせないでください! 生地がないって言ってるでしょ! 手芸屋もスポーツ店ももう閉まっています!」
のぞむは身をひるがえした。
井上はニヤリと笑う。しょせん子供が大人に勝てるわけがない。
言い返せなくなって逃げたのだ。
のぞむの言葉が正しいことを、井上は百も承知だった。
モウロクなんてしていない。
一ヶ月も前から何回も聞かされていて、耳にタコができている。
はっきり覚えている。
最初から困らせるために鉢巻を買わなかったし、作らなかったのだ。
子供のくせに可愛げがなくて生意気で傲慢。小学生のくせに人に優劣をつけ、雇われている者を自分より下だと見下し、顎で使おうとする。
聡く、頭の回転が速く、キレもいいから、井上の痛いところを鋭く突いてくる。
小学生相手に何度も言い負かされそうになった。その度に嘘やうわべだけの言いわけを並べ、おまえが悪いのだと言いはり、徹底的につっぱねる。
賢くて理詰めで向かってくる相手は、不条理なことを言われたりされたりすることがなにより神経にさわり、いらだつことを、井上は十分に承知していた。
(学校で恥をかけばいい!)
井上は細い目をさらに細め、危険な色を光らせる。
のぞむに対する感情が嫌いという域を超えていた。
憎悪しかない。
ところが。
のぞむが足音も荒く戻ってきたかと思うと、赤い布を井上の足元に叩きつけた。
「ほら、材料もあるじゃない! どこに目をつけてるの? そんなにモウロクしてちゃ、もう仕事ができないよね? 退職したらどう? 私はぜんっぜんかまわない。むしろありがたい」
ありがたいと言った時の声音は、小学生のものとは思えないくらい、井上の背筋を凍らせるものがあった。だからかえって井上を意固地にさせた。