虫すだく 6 (3)

文字数 278文字

 奏凪の返事を待たず、のぞむはスマホを手離した。

 ぽちゃんと、まっすぐ湯の中に落ちる。

 奏凪はあわてて浴槽から飛び出した。
 裸のまま、自分の部屋に逃げ込んだ。ぜいぜいと、肩で息をする。
 胸の心臓の辺りの筋肉がつっぱり、ヒクヒクと痛んだ。骨ばった右手で、胸の辺りの肉をギュッとつかんだ。

「水びたしじゃない……」
 のぞむはつぶやく。
 奏凪が逃げ出した後は、奏凪が落としていった滴でぬれていた。

 のぞむは湯の中からスマホを拾い上げた。
 のぞむは感電などしなかった。
 それは昔使っていた壊れた携帯電話で、バッテリーに充電もされなくなって久しいただのガラクタだった。
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登場人物紹介

加賀美 朔 (かがみ さく)

他人に興味がなく、感情というものを持ち合わせていない。

人に言えない秘密を抱えている。

自動車整備士。

桂木 奏凪 (かつらぎ そな)

姉に虐待を受け続け、逃げ出した先で朔に出会う。

そのまま朔のアパートに住みつく。

桂木 のぞむ

奏凪の血のつながりのない姉。

地元でも評判の美人だが、近寄りがたい雰囲気を持つ。

倉沢 矩 (くらさわ ただし)

優等生で、かわいそうなものを放っとけない性格。

のぞむの幼なじみで、短大の図書館司書。

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