虫すだく 5 (6)
文字数 725文字
「この家に居座るのならこれを食べなさい。おまえの母親は私の母を虫ケラ扱いした。犬なんてまだマシでしょ? 食べられないなら食事は与えないし、嫌なら出て行けばいい」
「馬鹿馬鹿しい」
井上は食器を下げようとした。
しかし、奏凪は井上がそれをかたづけるより早く手をそえて、箸で白米をつまみあげる。
その手を、のぞむが払いのけた。
奏凪の手から箸が飛び、白い粒とともにフローリングの床に落ちて、乾いた音を立てながら転がった。
「犬は箸なんて使わないでしょ?」
びっくりしてのぞむを見上げるが、双眸に宿る色に気圧され、うつむいてしまう。
奏凪は今までこれほどまで憎悪に満ちたまなざしを向けられたことがなかった。
恐怖で鈍る頭を必死に回転させ、犬がどうやって餌を食べるのか思い出そうとした。
奏凪は震える手で食器を口元まで持ち上げた。
しかし。
「犬は前足で食器を持ち上げたりしないでしょ?」
のぞむは冷たく言い放つ。
その姿は、のぞむの母親を見舞った紗江の態度に似ていると、井上はふと思い出す。
のぞむに言われるままに奏凪は食器を元に戻し、その中に顔を埋めるようにして白米を口に入れた。
ゆっくりゆっくり時間をかけてかみしめ、ギュッと目を閉じて一気に飲み込む。
奏凪の犬食いの様子を見届けたのぞむは、さらに不機嫌になった。
食べたということはこの家に居座るということだ。
のぞむへの宣戦布告と受け取った。
「居座る気なのね」
その声色に、奏凪はびくりと体を震わせる。
腹の奥底が痙攣し、不自然に波打ち、咀嚼 したものが逆流してくる。
あわてて立ち上がると、椅子が派手な音を立てて倒れる。
それにかまっている暇はなかった。
手で口を押さえると、奏凪はトイレにかけ込んだ。
「馬鹿馬鹿しい」
井上は食器を下げようとした。
しかし、奏凪は井上がそれをかたづけるより早く手をそえて、箸で白米をつまみあげる。
その手を、のぞむが払いのけた。
奏凪の手から箸が飛び、白い粒とともにフローリングの床に落ちて、乾いた音を立てながら転がった。
「犬は箸なんて使わないでしょ?」
びっくりしてのぞむを見上げるが、双眸に宿る色に気圧され、うつむいてしまう。
奏凪は今までこれほどまで憎悪に満ちたまなざしを向けられたことがなかった。
恐怖で鈍る頭を必死に回転させ、犬がどうやって餌を食べるのか思い出そうとした。
奏凪は震える手で食器を口元まで持ち上げた。
しかし。
「犬は前足で食器を持ち上げたりしないでしょ?」
のぞむは冷たく言い放つ。
その姿は、のぞむの母親を見舞った紗江の態度に似ていると、井上はふと思い出す。
のぞむに言われるままに奏凪は食器を元に戻し、その中に顔を埋めるようにして白米を口に入れた。
ゆっくりゆっくり時間をかけてかみしめ、ギュッと目を閉じて一気に飲み込む。
奏凪の犬食いの様子を見届けたのぞむは、さらに不機嫌になった。
食べたということはこの家に居座るということだ。
のぞむへの宣戦布告と受け取った。
「居座る気なのね」
その声色に、奏凪はびくりと体を震わせる。
腹の奥底が痙攣し、不自然に波打ち、
あわてて立ち上がると、椅子が派手な音を立てて倒れる。
それにかまっている暇はなかった。
手で口を押さえると、奏凪はトイレにかけ込んだ。