序章 氷輪 (4)

文字数 207文字

 長い年月、病院勤めをしている間に、重病に苦しむ患者を多く見てきた。それに比べ、今の患者の病は、現代医学で治療できる病だ。
 居眠りをしていたと混乱するほど、診察結果がショックだったのだろうか。

「まさか、自殺なんてしないわよね……」 
 と、ひとりごちたが。

 遠ざかっていく後ろ姿を見送りながら、ひとつため息を吐く。
 取り越し苦労だという一言では不安が払拭しきれないほど、その患者が(くら)い目をしていたのが気がかりだった。
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登場人物紹介

加賀美 朔 (かがみ さく)

他人に興味がなく、感情というものを持ち合わせていない。

人に言えない秘密を抱えている。

自動車整備士。

桂木 奏凪 (かつらぎ そな)

姉に虐待を受け続け、逃げ出した先で朔に出会う。

そのまま朔のアパートに住みつく。

桂木 のぞむ

奏凪の血のつながりのない姉。

地元でも評判の美人だが、近寄りがたい雰囲気を持つ。

倉沢 矩 (くらさわ ただし)

優等生で、かわいそうなものを放っとけない性格。

のぞむの幼なじみで、短大の図書館司書。

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