序章 氷輪 (4)
文字数 207文字
長い年月、病院勤めをしている間に、重病に苦しむ患者を多く見てきた。それに比べ、今の患者の病は、現代医学で治療できる病だ。
居眠りをしていたと混乱するほど、診察結果がショックだったのだろうか。
「まさか、自殺なんてしないわよね……」
と、ひとりごちたが。
遠ざかっていく後ろ姿を見送りながら、ひとつため息を吐く。
取り越し苦労だという一言では不安が払拭しきれないほど、その患者が昏い目をしていたのが気がかりだった。
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