第4話 安斎みずき

文字数 970文字

 照明が落ち、店内の一角をスポットライトが照らす。本日一回目のステージの始まりだ。

「あぁ、今夜は安斎さんなのか、どうりで客の入りが多いと思った。ステージ周りのボックス席は満員御礼だ」中腰で頸を伸ばして店内を見回している。

「はい、あの方の時は平日でも客の入りが違いますね。コンサートを開いても結構な客を集めるそうですから、飲食代だけですむここはファンにしては嬉しいでしょうね」

 安斎みずき。週に一度はこの店のステージに立つジャズシンガーだ。歳の頃は二十代後半ぐらいか。まだ若いのに多くの波濤(はとう)を越えてきたような“わび”がある。

 もっとも、『You'd Be So Nice To Come Home To』をレコーディングした時のヘレン・メリルが24歳だったことを思えば、必要なのは年輪ではなく、持って生まれた感性なのだろう。

 少し掠れた声が、マイクを通して響きだした。



 Oh, Lullaby of Birdland, that's what I always hear when you sigh
 Never in my wordland could there be ways to reveal in a phrase how I feel

 あなたが吐息を漏らすとき いつも聞こえてくる音
 それがバードランドの子守唄

 私の持つ言葉では それがどんなものなのか 言い表すことなんてできない

 Have you ever heard two turtle doves Bill and coo, when they love?
 That's the kind of magic music we make with our lips When we kiss

 愛し合う二羽のキジバトが交わすささやきを 今までに聞いたことがある?
 それは魔法の音楽のように
 私たちがキスをするときに唇で奏でる音のようなもの


 “Lullaby of Birdland”
 George Shearing and lyrics by George David 1952
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