第18話 妖精現る

文字数 973文字

「さぁ、あなたの心の重しを取りましょう」ラメでもまき散らしたかのように光り輝く妖精が目の前に舞い降りた。大きさはどうだろう。20センチもないだろうか。

 この妖精が出現するのは何度目だろう。初めて見たときは、酒の飲み過ぎで頭がおかしくなったのかと愕然としたぐらいだ。現れるたびに講釈をたれていく不思議な妖精だ。

「あなたの一番の悩みはなんですか?」ふわりと小首を傾げながら微笑む妖精の問いに、僕はゆっくりと口を開き、ため息混じりに呟いた。
「悩みがありすぎてよく分からないな」

「友達はいますか?」しばらく考えた僕は首を振った。
「それもよく分からないかな。いるんだかいないんだか。僕がそう思っていても向こうがどう感じているかはわからないし、相手が友達だと思っていたとしても、僕がそう捉えているとは限らないし。そこにはきっと、温度差が生じているんだろうと思う」

 ふむふむと頷いた妖精は、では、質問を変えます! と人差し指を立てた。
「この世界で誰が一番憎いですか?」
 僕は即座に答えた。「一番も二番もないよ。そんな人はいない」



「それは、とてもすてきです」妖精は笑った。
「質問だけで答えはないの?」
 いたずらっぽい笑みを浮かべた妖精は背中を向けてパソコンデスクの上を歩き出した。そして、まーだ吸ってる! と呟き煙草の箱を蹴飛ばした。
 つッ

「ライターも蹴っちゃった? ねえ、ライターも一緒に蹴っちゃったの?」

 20センチ弱の身の丈で、狙いを外してライターまで蹴飛ばしたらさぞかし痛いだろうに、何事もなかったような顔で振り向き、再び人差し指を立てた。

「悩みがひとつ解決したら、その先にまた悩みが出てくるのですね?」
「まあ、そんな感じかな。でさ、ライターまで蹴っちゃたんでしょ?」
「ということは、人はひとつのことでしか悩めない、ということになりませんか?」無視された。強情な妖精だ。

「でも、それが何か解決策になるの?」
「100の悩みがあっても、目の前に立ちふさがるのはひとつです」
「それはどうなんだろう。二つも三つも悩みはあるよ」
「いえ、心騒がせることは多くても、首を絞めつけてくるほどの悩みはひとつのはずです」


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