第23話 メッセージカード

文字数 716文字

「あの方はね、あなたがお見えにならない日はいつもこれを飲んでいました。ステージの終わった後に、よく冷えたサウザ・テキーラにライムに塩。肩を丸めて、どこか寂しげにね。そして、二つ折りの小さなカードを開いて見ていました」

 そのときようやく、二年前までブランコのテキーラを冷やしていたという意味に気がついた。



「そうでしたか……それは知りませんでした」
「彼女は強がりだったのかもしれませんね。あのカードはあなたが渡したものですね? 花束と一緒に」
「それは見ていないので何とも言えませんが」

「いえ、きっとそうです。彼女の心を捉えた言葉を知りたくてお願いをしたのですが、彼女は見せてはくれませんでした。ほれほれって子供みたいにひらひらさせただけで」棚橋さんが懐かしむように微笑んだ。
「そうでしたか」大事に持っていてくれたのか。

「喧嘩をされたことは?」
「いえ、ないです。喧嘩をするほど仲がいいとか、あの意味がまったく分からないんです。相手を思いやっていれば、喧嘩なんかになるはずがないですから」
「その通りですね。あの方が聞いていたら喜ぶでしょう」棚橋さんは何度も頷いた。

「昼間は仕事をしているからさほど気にならないんですが、夜になると、もうどうしていいのか分からないぐらいになるんですよね」

「分かります。得た喜びは短いですが、失った悲しみは長い。ご結婚は?」
「いえ、とてもそんな気には」
 僕の答えに頷きながら、ふむ、と息を吐いた。「もしもいい相手が現れたら、迷わずご結婚されることです。そのほうが、あの方も喜ぶでしょう」
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