第5話 花なら六分咲き

文字数 871文字

「いいねぇ、安斎みずき。桜の花にたとえれば六分咲きってとこかな。あと数年もすれば満開直前の七分咲き」ほわっとね。とても花びらには見えない太い指を咲かせて見せる。

「そうですね。まさしく花の頃の高揚を感じさせる方です。(あで)やかな満開の八分咲きも、はらりはらりの散り始めも、薫風(くんぷう)に揺れる葉桜も見てみたいと思わせるひとです」



「一見クールそうなのにさ、ちょっと笑うとはにかんだ子供みたいにかわいいしね。レコード出せば売れるんじゃないのかなぁ」
「そうそう、レコーディングの話もあったそうですよ。でも、ステージが居場所だからと断ったようですね」

「潔い! でももったいない。レコードの後に写真集でも出せば売れそうなのに。肩とか太ももとかちょっと出してさ──」ジャケットの肩をずらせて見せるが、サロンパスが上手く貼れないだるまさんみたいで色気の欠片もないのがご愛敬だ。

「ちょっとじゃなくてもいいんだけどな。おっぱいの端っこなんかのサービスショットも入れてさ」
 妄想の話はどんどん進んでゆく。

「端っこってどのあたりですか」
「谷間──いや、横乳もいいかも」こうやってさ。
「やらなくてもいいと思いますが」
「だってステージ衣装のガードが固いんだもん。小柄な体に、こう、なんていうか、充実してそうなおっぱい」
「涙ぐんでます?」
「想像して感動してる。芸術は爆発なんだよ慎さん」

「買いますか?」
「買うなぁ絶対」
「どっちをですか」
「そりゃ両方。レコードも写真集も。んで、ここにサインもらいに来る。もう、キスマークも付けてもらっちゃう。そうだ、キスマーク用の口紅も買ってきて、その口紅は絶対持って帰る。もう、舐めたいけどもったいないから家宝にする。慎さんは?」

「買うかもしれません」
「どっちを」
「もちろん両方。く……口紅も」
「慎さん、なに照れてんの。ニコラシカもう一杯もらおうかな」
「かちこまりました」か……噛んだ。
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