第19話 悩みは消えるもの
文字数 1,345文字
心騒がせることは多くても、首を絞めつけてくるほどの悩みはひとつ──。
目を閉じた僕は妖精の言葉を反芻 した。記憶を手繰 る。今現在を黙考する。起きてますか? 妖精の声に目を開けた。
「うーん……そういわれればそんな気がしなくもないけど」
「ないけど?」
「確信はない」
「ほんとにないですか?」
「確かに100も悩みはないけど」
「あなたは今まで軽く100ぐらいは悩んできたはずです」
「だから、100も悩んでないって」
「思いの外 馬鹿ですねえ。江戸の八百八町 。浪華の八百八橋 。京都の八百八寺 と同じです。実際はもっと多いんですけどね」いうに事欠いて馬鹿はないでしょ。
「橋の数なんてね、東京の方が多いんです。浪速が江戸の橋の数を越えたことは一度もないんですよ」
余談だよね。はい、余談です。
「さてさて、残りの99はあなたの心が消したのですよ。99に突っ込みを入れたら完全無欠な馬鹿ですからね」
「あのさ、消したという意味がよく分からない──それにさ、世の中には解決しない悩みもあるよ絶対」
「ありません」妖精はにっこりと笑みを浮かべながら両手をパッと広げた。
「10年前のことであなたは悩みますか?」いくらなんでも10年は。
広げた片手を突き出した。なかなか腰の切れがいい。
「5年前のことではどうでしょう?」
「悩みはしないかなあ──悔やむことはあるけど」煙草に伸ばした手を踏まれた。痛くもかゆくもないのだけれど、手を引っ込めた。
「それはもうすでに悩みでありません。あなたはそれらをすべて解決してきましたか?」
「解決ねえ。覚えて──ないかな」
「実はすべてを解決などしてきてはいないのです。解決しなくても消えるのが悩みです」
「断言するんだね」
妖精だから。目じりを下げてむふんむふんと笑う。
「抱えきれないものを抱えようと頑張る必要はないのですよ。頭を抱えるのではなく、ある意味、腹をくくって笑って手放すのです。はっはっはーです。はっはっはー」妖精はお腹を叩く。
「笑って悪いことなど何一つありません。悩むも悩まぬも、あなたの心が決めるのです。明日を切り開く答えはすべて、あなたの手の中にあるのですから。人間、生きる時は生き、死ぬときには死にます」
「なんで切腹の真似するの?」潔く。
妖精は熱っぽく語るけれど、やっぱり解決策にはなっていない。
「明日は行くんですか? バードランド」後ろ手にパソコンデスクの上を歩き始めた。ふんふんとリズムをとるように。
「大事な日だからね」
「ですね。まだ悲しいですか」首を傾げて見上げてきた。
「うん、とても」
小さく頷いた妖精は、少しだけ同情めいた顔を見せた。
「煙草吸いたいですか?」
「うん」
「後ろを──うんしょ」煙草のパッケージを持ち上げようとした妖精は前のめりに倒れた。振り返っちゃダメよ。
パンツ見えてるんだけど、薄っすーいピンクの。
変態。パンツを隠そうとして、またパソコンデスクに頭から突っ込んだ。
目を閉じた僕は妖精の言葉を
「うーん……そういわれればそんな気がしなくもないけど」
「ないけど?」
「確信はない」
「ほんとにないですか?」
「確かに100も悩みはないけど」
「あなたは今まで軽く100ぐらいは悩んできたはずです」
「だから、100も悩んでないって」
「思いの
「橋の数なんてね、東京の方が多いんです。浪速が江戸の橋の数を越えたことは一度もないんですよ」
余談だよね。はい、余談です。
「さてさて、残りの99はあなたの心が消したのですよ。99に突っ込みを入れたら完全無欠な馬鹿ですからね」
「あのさ、消したという意味がよく分からない──それにさ、世の中には解決しない悩みもあるよ絶対」
「ありません」妖精はにっこりと笑みを浮かべながら両手をパッと広げた。
「10年前のことであなたは悩みますか?」いくらなんでも10年は。
広げた片手を突き出した。なかなか腰の切れがいい。
「5年前のことではどうでしょう?」
「悩みはしないかなあ──悔やむことはあるけど」煙草に伸ばした手を踏まれた。痛くもかゆくもないのだけれど、手を引っ込めた。
「それはもうすでに悩みでありません。あなたはそれらをすべて解決してきましたか?」
「解決ねえ。覚えて──ないかな」
「実はすべてを解決などしてきてはいないのです。解決しなくても消えるのが悩みです」
「断言するんだね」
妖精だから。目じりを下げてむふんむふんと笑う。
「抱えきれないものを抱えようと頑張る必要はないのですよ。頭を抱えるのではなく、ある意味、腹をくくって笑って手放すのです。はっはっはーです。はっはっはー」妖精はお腹を叩く。
「笑って悪いことなど何一つありません。悩むも悩まぬも、あなたの心が決めるのです。明日を切り開く答えはすべて、あなたの手の中にあるのですから。人間、生きる時は生き、死ぬときには死にます」
「なんで切腹の真似するの?」潔く。
妖精は熱っぽく語るけれど、やっぱり解決策にはなっていない。
「明日は行くんですか? バードランド」後ろ手にパソコンデスクの上を歩き始めた。ふんふんとリズムをとるように。
「大事な日だからね」
「ですね。まだ悲しいですか」首を傾げて見上げてきた。
「うん、とても」
小さく頷いた妖精は、少しだけ同情めいた顔を見せた。
「煙草吸いたいですか?」
「うん」
「後ろを──うんしょ」煙草のパッケージを持ち上げようとした妖精は前のめりに倒れた。振り返っちゃダメよ。
パンツ見えてるんだけど、薄っすーいピンクの。
変態。パンツを隠そうとして、またパソコンデスクに頭から突っ込んだ。