第15話

文字数 818文字

アメリカでのことは全て完ぺきであったわけではないが私に新しい経験と価値観と自信を与えてくれた。この貴重な体験は精神疾患という病気を持つコンプレックスのあった私を健常者と同じように自分も生きることができるという気持ちにさせてくれる画期的なものだった。私の影を落としていた暗い部分にも光をあててくれるようになった。私は高校時代の発病前くらいまでに精神的な部分で回復していった。慶應の通信の勉強も再開し、スクーリングやレポートを提出し、試験もきちんと受けた。また厳しく難解な授業も積極的にとった。そして果敢にチャレンジする意欲が湧いてきた。英文学のレポートでシェイクスピアのハムレットについて論じなさい、という課題ではAプラスという今まででいちばんいい成績もついた。法政大学時代にイギリス文学に最後のほうで親しんだのを思い出した。

 あるとき卒業してから何年も経っているのに急に法政大学が懐かしくなり市ヶ谷校舎を訪れた。びっくりしたのは私が学生時代だったときとキャンパスが変化してまるっきり違うように思えたことだ。ボアソナードタワーという高いビルもあるし、昔の左翼に傾倒していたような薄汚れた校舎で張り紙がべたべた貼ってあった頃とは大違いだ。ボアソナードタワーに入ってみるとエクステンションカレッジの案内があって私は思わず英会話のコースを受講することにしてしまった。あれだけ私には殺風景に移っていた法政大学も今じゃ自分史の中の一部なのだ。エクステンションカレッジの英会話は皆真面目に受けていたがアメリカでフリーアダルトスクールに通っていて勉強と人間関係を同時に楽しんでいた私には少々物足りなかった。その上語学学校から派遣されている女性のアメリカ人の講師に「あなたの発音はテレフォンレディーのようで甘ったるくって男性受けにはいいかもしれないけど、もっと直したほうがいいかもね」と言われひどく気分を害してしまい傷ついて最後まで受けることはなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み