第10話

文字数 637文字

お金は持っていたのでヒースロー空港でカフェに入り一日中いた。ときには涙をためたり、しくしく泣いていたり。外国人は他の外国人に対して優しいのではないかと勝手に思い込んでいたため盗難はショックだった。私自身、もう自分で冷静に判断してどういった行動に出ればいいのか、という術が混乱して分からなかった。夜遅くなり、ヒースロー空港のポリスが尋問に来た。私は話せる英語で頑張ってはみたもののあまり通じなかったのだろう。ヒースロー空港の地下にある独房に入れられた。その前にからだをすっぽりしたズックを被った上から婦人警察官に危険なものなど持ちこんでいないか確認された。パスポートをもとに日本大使館に連絡がいったようだ。

独房に入れられておとなしく座ったり横になっている間にふたりの日本人が別々の時間帯に私に面会に来た。一人目の方は優しそうな女性で慈善的な団体の人らしく、必要があれば通訳をする、と言って帰っていった。二人目はやり手の雰囲気の五十代くらいの女性で通訳会社の者だと言って、社長が自分の主人で主人は東大を出ている、など場に不相応な話をして無理やり名刺を突き付けられた。そしてここまで来るのにタクシーを飛ばしてきたがなかなか夜間で捕まらず大変だったと文句を言って去っていった。

私は日本大使館にいった連絡で問題ない人間と分かると翌日ホテルに移動させられて少し休んだが薬がないのでいっさい睡眠ができなかった。警察の人からもこの後は郊外の精神科のある病院へ入院させるために送ると言われた。
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