第16話

文字数 905文字

慶應での在学期間が最後の年となり単位の取得に焦っていた。その頃手順を知らずに英語の科目三つとある程度の単位があればさらに二年間在学期間を延長できるということを最後の年なって知った。私は英語は二つは単位を取っていたが文法だけをあとまわしにしていた。在学期間最後の年の最後の試験期間で英語の文法を受けようと申し込んでいたのだがその日、当日私はまた悪夢を見ることになった。プレッシャーからだったのだろうか?それとも長かった主治医が変わったせいだろうか?私は久しぶりに入院することになった。

 今現在私は四十歳だ。結婚ももうすぐ二年目を迎える。主治医はあのとき変わった新しい主治医のまま継続している。今まで離れていった主治医は女性であれば結婚を機によその病院に移ったり、ベテラン医師は開業するために辞めていったりした。その度に何だか一抹の淋しさを味わっていたが現在の主治医はおおよそ十年お世話になっている。私の病気をよく理解しているし、私の良い部分も欠点も分かっている。入院回数が多くてもそれを嫌だと思わず傷の手当てくらいの気持ちで気軽に入院すべきときはするようにとも言われた。

 さて通信制の慶應義塾は結果として満期退学という形になり残念なことに卒業できなかった。それでも私なりに必死に勉強した気持ちもあったので結果はないのだけれど達成感はあった。それからは三十代という年齢を無理なく、アルバイトをしたり、好きなテニスをするためにテニススクールに通ったりと過ごしていた。

 三十七歳のときに今の主人と出会うことになった。そして私に寒い風を吹かせた武道館や法政大学のある千代田区とまた縁が深くなった。

 どのくらいの人が知っているのか分からないが「アーツ千代田3331」。

 私の運命を少しずつ変えつつある。

 まずは主人と出会ったことから少しだけ。出会いから結婚まではスムーズに運び、今も良き伴侶でいちばんの理解者である。付き合い始めてから結婚している今日まで計三回の入院と退院を繰り返したが主人はそれに対して偏見や嫌悪感はなく、かいがいしく見舞いに来てくれたり、必要なものを揃えてくれる。私の病を知って覚悟の上での結婚だった。
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