第9話

文字数 766文字

学校で卒業式に用意してある学帽も被って写真撮影をしてもらった。最後に夜はゼミでの打ち上げがあったらしいが私は仲のいい一人の友人とカフェで何時間も話し込んで、その後その友人とカラオケに行った。浮かれたあまり初めて終電を乗り過ごした。家に電話を入れると父がでて「早く帰ってきなさい!」と怒鳴って怒りを露わにしていた。父は四年生の一年間、無事私が卒業できるように車で毎日夜に迎えに来てくれた。父の気持ちを考えると私は調子に乗って軽率だったな、と痛く反省し、タクシーに乗った。首都高をタクシーが通り過ぎて行く。真っ暗な闇の中大学での五年間の出来ごとが頭の中を駆け巡った。明け方に家に着いたが父は寝ていた様子はなく黙って目を充血させて椅子に座っていた。このことに関して私は自分がこれほど親不孝と思ったことはないくらいだ。

大学を卒業すると卒業旅行に行くこと、しかもグループで海外などに行くことが当時流行っていた。私は卒業旅行のグループには加わらないでひとりで大学生協でローンを組んでイギリスの語学留学に行くことに決めた。最初の二週間はハーロウ校、最後の四週間はケンブリッジ校の語学学校の予定で滞在形式はホームステイだった。

ところが海外旅行は私にとって生まれて初めての経験だ。飛行機すら乗ったこともない。心配した長女が成田空港までついてきてくれて私は1996年4月26日マレーシア航空でマレーシアのクアラルンプールを経由してイギリスに飛び立った。

残念な展開となったのはマレーシア航空でのトランジットでクアラルンプールのロビーにいた際に薬やガイドブックやホスト先の住所などが書かれた物一式が入ったリュックを盗まれてからだ。スチュアードに言っても英語が上手く話せず、十分にとりあってくれない。私はイギリスのヒースロー空港に着いて途方にくれてしまった。
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