第7話

文字数 754文字

 専修大学の入学式の帰りに千鳥ヶ淵を歩いてさらに多くの写真を撮った。ところが
家に帰宅したときカメラをうっかり千鳥ヶ淵付近で置き忘れてしまったことに気付いた。兄は残念そうだったが私は落胆せず最後の期待を込めて千鳥ヶ淵周辺の交番に電話をすると「落し物として届いているカメラがある」と警察官に伝えられた。翌日交番に赴き、詳しく置き忘れた場所やカメラのメーカーなどや特徴を伝えると、無事失くしたと思っていたカメラが自分に手渡され返ってきた。拾ってくださった方は老夫婦だと窺った。謝礼はいらない、という話だったが警察官は住所と名前を教えてくれて、後はこちら側の気持ちの問題だ、と言われた。

 そのころ『さくら』という題名の映画がロードショーされる予定だった。監督が神山征二郎さんで出演者が篠田三郎さんや田中好子さんの映画の前売りチケットをどういう理由で持っていたか経緯は忘れてしまったが手元にとにかくあった。ストーリーは「太平洋と日本海を桜で繋ぎたい」という夢を実現しようと、名古屋市から金沢市まで結ぶバス路線名金急行線が走る街道沿いに桜を植え続けた、佐藤良二の生涯を基にした作品で、原作は中村儀朋の『さくら道』。

 そして私たちはあの咲き誇る満開の桜の中で兄にとっては人生で貴重な記念となる入学式の写真を撮る為に妹の私が拾ってくださったカメラで写真を収めていたことをお手紙で顔も知らない老夫妻宛てに書き、『さくら』の映画の前売りチケットをよかったら観に行ってください、と二枚同封した。そして付け加えて、私たちの名字も「櫻井」と言い、桜が本当に良いご縁となりました、と付け加えた。老夫妻の奥さんらしき人から後に返事をもらい映画も観に行ったということや桜の縁に続けて、その奥さんからも親切で丁寧なウィットのある手紙を頂いた。
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