付録3 (【転】最終話  原版)

文字数 12,239文字

 ※初版 2020年 5月12日 書き上げ  (Ver 1.01)

 各運営様への事前説明のため、本当の初期に書いたものなので、実際とは整合があまりとれておりません。

※もちろん公平性を期すために、これなら大丈夫とは明示・名答は頂いておりません
 この原版をそのまま出すのではなく、あくまで内容をお伝えして、問題は無さそう
 だとご判断いただいたのみです。
 ですので、万一問題があれば(資料通りの内容でなければ)また連絡するとの
 お話でした。

ここを目指して1話から書いたためです。ただし、大元からはそれ程離れてはおりませんが、お見苦しい所もあるかと思います。ただし、これを大元としたのが最終話の
ver1.37です。
 ですのであくまでおまけとして掲載しておきます。

 ……ちなみに、本当の意味での最終話のタイトルと、一番伝えたい一言だけは、
誰に言ってもらうのかも含めて、すべて決まっています。
 そこを目指してもうしばらくは書き進めることになってます☆

ーーーーーーーーー原版・本文ーーーーーーーーーここからーーーーーーーーーー

「あの、少し時間良い?」
 放課後、部活も終わり校舎内に人気がほとんど無くなった時間になってようやく待っていた当人が友人と共に現れる。
「あ? お前誰だよ?」
 蒼ちゃんと一緒にいる時に、何度か顔を見ているはずだけれどそれすらも覚えていないのか、周りに女子がいない事も助けてか、普段みんなが思っている戸塚君とは似ても似つかない声で会話が始まる。
 もちろんそこに私の戸塚君に対する敵意みたいなのも感じてはいると思うけれど。私の体を不躾に上から下まで舐めるように見た後、
「おい! 行こうぜ!」
 私にいや、私の体に興味が湧かなかったのか、私の横を友人と一緒に通り抜けようとしたところで、私は戸塚君が通り抜けようとするのを邪魔するように一歩横にずれる。
「は? お前何のつもりだよ」
 その表情は普段みんなの前で“イケメン”と言われている表情・雰囲気とは全くかけ離れたものだった。本当に、つくづく人って言うのは見かけだけでは、今視えている表面だけでは判断できないと今なら思う。
「私、時間ある?って聞いたよね」
 蒼ちゃんが綺麗な涙をこぼしながら、ごめんね、ごめんねと繰り返しながら全部話してくれたこと。今の私に対する舐めまわすような視線、何もかもが悔しくて仕方がない。
「だったら早く言えよ! ただですら可愛くない顔が酷い事になってんぜ」
 そう言ってたいして大きくもない私の胸を見て笑う戸塚君、こんな男と付き合う事を止められなかった自分が。蒼ちゃんがこんなにまで傷ついている事に今まで気づけなかった自分が! だから今は、戸塚君の卑しい視線に嫌悪感を覚える事はあっても、恥ずかしい気持ちを覚える事は無い。
「じゃあ、単刀直入に言うけれど、今すぐ蒼依と別れて」
 それでも蒼ちゃんはまだこの人を好きなのかもしれない。当人たちが決める事だって思う。
 でも、前回そう思って失敗して、今こんな状況になってしまってる。蒼ちゃんには後で恨まれても良い。その時は“また”私が悪者になれば良いだけの事だ。私は今でも、いつだって私の周りの人間には笑っている事は出来なくても泣いて欲しくないのだ。
「はぁ? 何でお前にそんな事言われないといけないワケ?」
 蒼ちゃんの話をすると、こちらに向かって威嚇するように声を低くして、一歩ずつこっちに歩を進めてくる。大体の女の子はこの雰囲気で迫られたら、泣き出すと思う。でも、朱先輩に出会うきっかけとなった私の弟は特別口が悪いのだ。
 加えて今ではなりを潜めてはいるけれど、暴力も一時期は本当にひどかった。だから凄んで来られても、これが戸塚君の本性なのかと思うだけなのだ。蒼ちゃんからしたら、とっても怖かったと思う。
 どうして私がその時、一緒にいてあげられなかったのか、その時に予知能力でも無いと分からない事だと分かっていても、後から後から悔やまれる。
 怖がるそぶりを見せない私の態度が気に障ったのか、はたまた気に入ったのか、
「へぇ、お前みたいな気の強いやつ、嫌いじゃないぜ! 胸は小さいけ――なっ?!」
 そう言いながら片方の手で私の顔を撫でまわし、もう片方の手で胸を触られた気持ち悪さで思いっきり胸を触っていた手を思いっきりはたき、顔を触られていた手から逃れるように一方後ろへ下がる。
「そんな汚い手で私に触らないで」
 どうして蒼ちゃんって言う彼女がいながら、平気で他の女子に触れるのか。
「おい、サッカー部のキャプテンで、女子からのあこがれでもある俺の誘いを断るなんて、他の女共らが知ったら、嫉妬と嫌がらせの嵐だろうなぁ。もし俺が女共らに言えば、お前明日から友達失くすぜ?」
 答えが分かる。そうか、これで気の弱い蒼ちゃんが断れなくなったのか。蒼ちゃんもバカだなぁ、こんな男よりも私を信用して欲しかったなぁ。と思う反面、信用よりももっと暴力的で分かり易い、恐怖によって蒼ちゃん自身が身動きできなくなっていた事に初めて気が付く。
 私が蒼ちゃんの気持ちを思う間に、私が戸塚君の手から逃れるために下がった一歩を埋めるために、再度戸塚君がこっちに一歩を踏み出す。
 元々部活棟の出入り口のガラス扉付近で待っていた私は、そのガラス扉に背中をくっつける事になる。
「蒼依の事、初めから好きじゃなかったのに蒼依に声かけたんだ」
 戸塚君が何かを言う前に、こっちから質問を突き付ける。
「ああ? 蒼依の事は好きだぜ?」
 私の質問に取り繕う必要もないという判断なのか、卑しい視線を遠慮なくぶつけてくる戸塚君。さっき触られた感覚も残っていて、気持ち悪い。この気持ち悪さは、お風呂に入って洗い流せるのか。
「あいつは、俺が求めたらいつでも応えてくれるからな」
 それはさっきの脅しとセットだったからだろう。だから嫌でも恥ずかしくても、応える以外の選択肢がなかったことは容易に想像できる。
 不躾な視線、遠慮なく突然触られた胸。たった短い時間での行動だけでも半ば答えは予想出来てはいたけれど、あまりにもあんまりな答えに、悔しさや怒りを通り越して絶句する私。
 そんな私の姿に好き勝手な解釈をしたであろう戸塚君が
「お前みたいな気の強い女は嫌いじゃないぜ! 胸は小さいけど、気の強さに免じてもう一回チャンスをやるよ」
 そう言って今度はスカートの中に手を入れてって! 冗談じゃない!!
「触んなっ!!」
 思いっきり力(ちから)いっぱい、戸塚君を蹴り飛ばす。
「キャプテン大丈夫っスか?!」
 後ろにたたらを踏んで、こけそうになった戸塚くんの元に慌てて駆け寄る友人。
 あまりにも気持ち悪くて吐きそうになる。私の中ではこういうのは優希君以外には考えられない。
 そこで自然に、私自身の体が優希君に触れて欲しいと求めている事に今初めて気付く。気が付けば後は早かった。まるで一瞬だった。
 さっき一瞬でも触られた胸も、顔も気持ち悪さよりも、優希君に触れてもらって上書きして欲しい、顔も胸も体中優希君だけに触れて欲しい。
 優希君以外には触れられたくない。心と体の全てが優希君を求めてる事を理解する。そして蒼ちゃんがいつからか、言わなくなってしまった、言えなくなってしまった
「“安売り”は駄目だよ」
 朱先輩が言ってくれていたこと
「愛さんもこの人!って決めるまでは、あんまり気を許し過ぎたらダメだよ。男の人ってすぐに勘違いするからね」
 ああ、こういう事なのか。こんな状況の中で皮肉にも私は自分がどうしようもなく“女”である事“恋”をしている事を自覚させられてしまう。
 そう理解してしまうと、次は優希君以外に触られると言うものすごい恐怖感と優希君以外に体をさっき触られた嫌悪感が私を襲う。
 その感覚は自覚するまでのさっきとは、全くの別次元の気持ち悪さだった。だから、ここで約束をしてもらわないといけない。
「もう一回だけ言う。蒼衣と別れて」
 こんなのに蒼ちゃんは誰にも言えずにずっと耐えてきたのだから。そうして立ち上がった戸塚君の表情を見て、恐怖心が膨れ上がる。蒼ちゃんはいつからこんな気持ちで私たちと学校生活を送ってきたのだろう? 
 今回の事も、優希君の家の事も、優珠希ちゃんと佳奈ちゃんの事も、クラスでの事もみんな、私は統括会に入ってみんなが悲しまないようにって、少しでも短い学校生活を楽しめるようにって、私は今まで何を視てきたんだろう。
 人前では、朱先輩の前でしか泣かないって決めていたのに、悔しくて、悔しくて視界がぼやけてくる。
「何? さっきまでの勢いはどうした? 今更大人しくしても、さっきのが最後のチャンスだったからな」
 そうしている間にも膨れ上がる戸塚君に対する恐怖心と嫌悪感。
「落とし前はつけてもらうぜ!」
「キャプテンこっちです」
 私の恐怖心にも嫌悪感にも構うことなく、私は戸塚君につかまれて、もう一人の友人の声に誘われるように、近くの更衣室に引きずり込まれる。
「あ? ほんとにさっきまでの勢いはどうしたんだ……よっ!」
 それと同時に戸塚君に押し倒される。
「なんだよ、色気のないパンツ履きやがって」
 慌ててスカートを抑えるも
「そんな子供みたいなパンツに興味なんてねえよ」
 そう言って私に馬乗りになってくる戸塚君。その瞬間膨れ上がった恐怖心が爆発した私が
「や、やめ――『やめてーー!』っ!」
 叫びかけた時に、
「愛ちゃんに乱暴しないで!」
「ハァ? 蒼衣が何でこんなとこにいんだ?」
 愛ちゃんが私の姿を確認したとたん、目に涙が浮かび、そのまま瞼から涙がこぼれ落ちる。
「愛ちゃんを……っ探してたの」
「ハァ? お前には今は用はねえよ。俺はコイツに相手してもらうんだよ」
「分かった。蒼衣が……相手っ…するから……愛ちゃん…っから離れ……て!」
 蒼ちゃんが泣きながら押し倒されて、乱された服装の私を、戸塚君とその友人の視線から庇うように蒼ちゃんが覆いかぶさって、
「間にあって良かった。間に合ってないけど、まだ最悪じゃなくて良かった」
「それと……ごめん……ね愛ちゃん…っ謝っても……っ…謝っ……ても、許して……もらえ……ないだろうけどっっごめんねっ……」
「蒼……依がっ……あの時に……っ恥ずかしがって……っないで……愛ちゃんの……言って…っくれた事……に耳を……傾けて……おけばっ良かったっ。本当に……何回謝っても…済む状態じゃ…っないけど、本当に……ごめんね」
 後から後から零れ落ち来る涙をぬぐう事も忘れて、止まる事を忘れたかのように涙をこぼし続けながら私に、ごめんね、ごめんねとただ繰り返す、嗚咽交じりの悲痛なすすり声だけが更衣室に響く。
「蒼ちゃん良いから。蒼ちゃん悪くないから。大丈夫だから」
 いつの日か、クラスメイトに悪口の同調を強要されて、何も言えなかったあの時のように泣き止みはしたものの、未だしゃっくりあげている蒼ちゃんの背中を優しく撫で続ける。
「愛ちゃん……っごめんねっ。蒼衣のせいで……愛ちゃんをっこんな目に遭わせて」
 蒼ちゃんの方が辛かったはずなのに、気づけなかったのは私の方なのに、蒼ちゃんは私の事だけを気遣ってくれる。まだ嫌悪感は吐きそうなほど気持ち悪いくらいだし、さっき自分がどうしようもなく“女”であり“恋”もしている事を意識させられてから、優希君を心と体の両方で求めている事をはっきりと理解して、その上で恐怖心も残ったままだけれど、事態は好転していないし、何より話もついていない。
「蒼ちゃ――」
「――じゃあ蒼依さっき言った事覚えてんな? ここで頼むわ」
 私が言いかける前に、戸塚君が蒼ちゃんに命令する。
「な?! ここでって……」
 他にも男の人がいる中でなんて、正気の沙汰とは思えない。
「ちょっと蒼ちゃん! 駄目! こんな奴の言う事聞く必要ないよ!」
 私は、今ここで服を脱ごうとする蒼ちゃんを止めようとする。
「あ? どうした蒼依? 今やらないと明日女共らに言いふらすぞ」
 すかさず戸塚君が脅しに入る。そこまで恐怖心を刷り込まれているのか!駄目だ!今、ここで関係を断ち切ってしまわないと、このまま卒業するまで弄ばれてしまう!そう思った私は、何でも良いから言葉を絞り出す。
「蒼ちゃん! 今ここで言う事聞いたとしても変わんないよ!」
 それでも止まらない。
「今までずっと一人そうやって脅されてきたんだろうけれど、今は私も聞いてる!」
 ブラウスのボタンを外す手は止まらない
「今までは一人だったかもしれない! でも今は一人じゃないんだよ! 私も聞いてるんだよ!」
 ブラウスを脱いでしまう手も止められない。
「蒼ちゃん! 私は今日の事が片付いても蒼ちゃんとは友達だよ! 今日の事なんて関係ない!蒼ちゃんが責任を感じる必要なんてないんだよ!」
 ブラウスを脱いで、シャツを脱ぐ手も止まらない。
「周りに何を言われたって変わらない! 実祝さんや咲夜さんだってちゃんと理解してくれる!」
「でも……」
 そうして、蒼ちゃんの元はキレイだった肌に、体に、出来た痛々しい痣を隠す事も叶わない上半身下着姿になってしまったところで、蒼ちゃんの手が初めてためらいを見せる。
「蒼ちゃんはもう一人じゃないんだよ! それに蒼ちゃんの事を分かってくれる友達もいる」
 畳みかけるなら、止めるなら今しかない。そんな時に、悪魔の一言が止まりかけた蒼ちゃんをまた動かしてしまう。
「じゃあお前が相手してくれるんだな」
 そう言って、私のふくろはぎを撫でる戸塚君の手が少しずつ上がってくる。
 ――ごめんね、優希君――
 どうしようもなく“女”である事と“恋”をしてる事を自覚した私は心の中で、強く、強く、深く、深く恋人に詫びる。
 自分からなんてもちろんあり得ない、無理やりとはいえ自分の彼女が他の男の人に体を触られるのを、触られたことを知ったら良い気がするわけがない。もし私が反対の立場なら、悲しくて、悲しくて間違いなく泣いてしまう。
 そして、その手が太ももに差し掛かった時、
「やめて! 愛ちゃんに触らないで! 蒼依がするから!」
 そう言って、私の太ももにあった戸塚君の手を払いのける、愛ちゃんが私の前から動く。――スカートも脱ぐために。
「待って蒼ちゃん! 私だけじゃダメ? 他のみんなが嫌がらせをしても私は絶対にしない!」
「でも蒼衣は愛ちゃんに蒼依の代わりをしてもらうのが、許せないの……ごめんね」
 立ち上がった蒼ちゃんが、再びスカートを落とすために手を動かし始める。
「蒼ちゃんはもっと自分の事を第一に考えて良いんだよっ!」
「……もし愛ちゃんにそんな事させたら蒼依、空木君に合わせる顔がないよ」
 駄目だ。どうしよう……優希君の事が頭にあって、好きな気持ちが爆発して、今の私には蒼ちゃんに届く言葉を持ってない……っ! それでも、何でも良いから言葉を紡がないとっ
「みんな蒼ちゃんが言う事を受け止めるよ! 最近はみんな受け止めてくれてるの蒼ちゃんなら気付いてると思う!」
 スカートも落として、スカートに隠れていた部分の痣も露わにして、蒼ちゃんが完全な下着姿になってしまう。
「蒼ちゃんは私たちの前で、堂々と思ってる事、本音で話しても良いんだよ!」
 蒼ちゃんが引っ込み思案なのはみんな知ってる。それでも、蒼ちゃんと本音で話したいって実祝さんも咲夜さんも、クラスメイトの中にもたくさんいるはずなんだ。それでも、戸塚君のズボンに手をかけようとする蒼ちゃんは止まらない。
 恐怖を心の奥まで刷り込まれたら、ここまでなす術が無くなるのか……それが、悔しくて、悔しくて、それでも頭から優希君が離れてくれなくて、痣だらけになった蒼ちゃんの綺麗だった体をただ歯噛みしながら見るしかなくて……
「私じゃ、蒼ちゃんの親友として、支えられなかったのかな……」
 今まで朱先輩の前でしか吐いた事の無い弱音をついに吐いてしまう。戸塚君がこれ以上も言葉を持たない私を一瞥してから
「うだうだ言わずに早くしろよっ!」
 そう言って蒼ちゃんに行為を促したところで、蒼ちゃんのひざ元に雫がポタ・ポタと1滴、また1滴と落ちているのに気付く。そして、少しの後、涙声ではあるけれどもはっきりと
「“私”今回を最後にします」
「はぁ? 何言ってんの?」
「今回を最後に戸塚君と別れます」
「そんな事許されると思ってんの」
「戸塚君に許される必要はないと思います」
「俺は認めないからな」
「認められなくても“私”の大切な友達を傷つけてまで付き合いたくない」
「それはお前が反抗するからだろ?」
「“私”が来る前にもう“私”の大切な親友に乱暴してたじゃない」
「それはこいつが勝手な言いがかりをつけてきたからだろっ!」
「痛い! そうやって暴力で押さえつけられるのはもうたくさん!」
「お前が俺の言う事を聞いておけば俺もこんな事しなくて済むんだよ」
「言う事聞いても暴力をふるったのはあなたの方!」
「私の体に、お父さんとお母さんが大切に育ててくれた体を傷だらけにしたのはあなた!」
「お前が俺に尽くさないからだろ!」
「痛いっ! “私”はあなたのモノじゃない!」
「いやな事は嫌って言える関係が良い!」
「俺に抱かれたい女なんていくらでもいるんだぞ!」
「その中でわざわざ蒼依を選んでやってんのが分かんないのかっ!」
「私は頼んでない」
「そもそも一番初めに付き合いたいって言ったのはあなたからで私からじゃない」
「だったら初めに断れよ! お前にその気があったから受けたんじゃないのかよ」
「違う! 私は始めに断った。でも、あなたが無理やり迫って来ただけじゃないっ!」
「ハァ? 俺様がお前に声かけたってか?」
「私はあなたの事なんて声かけられるまで全然知らなかった」
「俺の事知らなかっただと?」
「痛いからやめて! 知らないものは知らない。サッカーなんて興味もない」
「お前俺と付き合っていて良い気になってたんじゃないのかよ」
「恐怖と暴力で付き合っていても良い気になれるわけない」
「おまえは一度だって嫌がらなかったじゃねぇか」
「私は何回もやめてって言った」
「私はそんなあなたと付き合いたくなかった」
「なんだと? 誰に向かって言ってんだよっ」
「きゃっ! 痛い! そんな人を好きなれるわけがない」
「女はみんな同じ事言うんだよ。それでも別れる選択はしない」
「別れられないように、周りに言いふらして言えなくしたのもあなた」
「自分の彼女を宣伝して何が悪い」
「その独りよがりなのも私は好きじゃなかった」
「独りよがりだと?! 俺のやる事にお前文句言わなかっただろっ!」
「それは今みたいにして、女の子をみんな暴力と恐怖で支配しようとするから言えないだけよ」
「違うね。俺は自分の彼女を取られたくないから、周りに言ってただけだろ?」
「あなたなんかの言葉なんて信じられない。ただあなたは私を道具扱いしたかっただけ」
「自分の欲望を満たすためだけに」
「誰がそんなこと信じると思う?」
「愛ちゃんは信じてくれる」
「一人だけかよ! 話になんねーな」
「あなたはかわいそうな人ね。本当に心から信頼しあえる親友がいないって事だから」
「おまえ! 俺の周りにいる人数見てから物言えよ」
「それはあなたが、私には全く興味のないサッカー部のキャプテンただそれだけでしょ」
「そしてそれは友達とも呼べない」
「本当に友達なら、友達が間違ったことをすれば必ず注意してくれる」
「おまえ、勝手な事ばっか言いやがってっ!」
「痛い……だったら何でこういう時、あそこの男は止めないの?」
「それはお前が間違っていて、俺が正しいからに決まってんだろ」
「違う。ただ私や愛ちゃんの体が見たいだけ、下着姿が見たいだけ」
「ふん。そんなの男なら当たり前だろ」
「気づいてないんだ。そこには合ってるも間違ってるもないって事に」
「それすらも分かって無いなんてかわいそうな人」
「分かった。もういい、お前俺が女どもらに言っておくから、明日から一人な」
「一人じゃない。愛ちゃんがいる。愛ちゃんの友達もいる」
「じゃあそいつも一緒に言っといてやるよ」
「どのみち俺の誘いも二度断りやがったからな」
「孤立でも、嫌がらせでも何でもするように仕向けたらいい」
「愛ちゃんはたった一人でも、みんなから嫌われても私の友達でいてくれるって言ってくれた」
「一人でも、大切にしてくれる、出来る友だちがいてくれたから、私は“変わる事”が出来た」
「じゃあ明日俺が他の女どもらに言いふらして、全員からシカト食らっても良いんだな」
「そうやって脅されてきたけど、勝手にしてくれたらいい」
「今日、この行為が終われば私とあなたはもう関係のない人」
「分かった。じゃあ最後だから思いっきりヤらせてもらうぜ?」
「最後だから好きなように満足すると良い」
「じゃあ今日妊娠させてやるよ」
「子供が出来たってあなたの子なんて堕ろすよ」

 私は自分の乱れた衣服を直すことも忘れて、蒼ちゃんに見とれていた。すごかった。今まで見た事無かった。今まで蒼ちゃんのあそこまで凛とした声を聞いたことが無かった。
 蒼ちゃんに私の言葉がちゃんと届いていた事に、安堵と共に、喜びを感じる。それに何より、蒼ちゃんが自分の事を 蒼依から私と呼ぶようになってる。それだけ自分に自信が持てたんだと思う。
 体は確かに痣だらけかもしれない。でも、蒼ちゃんは誰よりも良い方向に変わったと思う。輝き始めたと思う。そんな変化を目の当たりに出来た事は、私は将来の宝物にするだろう。
 それと共に、物おじして言えなかった蒼ちゃんが、今まで恐怖を刷り込まれて身動きできなかった相手に対して、ここまで堂々と暴力を振るわれても、自分の意見を通せるようになったことに言いようのない喜びを感じる。
 気が付けばもう一人の男の人はもういなくなってる。ただ、その行為自体は辞める気はないようで
「じゃあ、ズボン降ろすね――」
「――何やってんのアンタ」
 まさに、その行為をって言うところで、学校では制服を着崩している優珠希ちゃんがまっすぐに、私の乱れた衣服を射るように見ていた。
「ああ? なんだお前? 俺は今機嫌が悪いんだよ」
 優珠希ちゃんに振り返った戸塚君を一蹴する。
「あんたには聞いてない――これは何の茶番なの? アンタ」
 他の人なんていないかのような私だけを射るように見る優珠希ちゃん。この子には取り繕うこともほんの少しの嘘をつく事も、絶対に出来ない。この子ほど信頼を築き上げるのが難しい子はいない。
「私と蒼ちゃんがこの人に乱暴されそうになってた」
 この子相手にはどんなことがあっても、喧嘩する事になろうとも、多少言いにくい事であっても正面からぶつかる事。
 それが優珠希ちゃんと大喧嘩したときに、私が学んだことだ。
「オイこらガキ! そんな短いスカートで誘ってんのか?」
 戸塚君が優珠希ちゃんにも同じように下卑た視線を向けるけれど、相手が悪い。
「ハァ? 見たかったら好きなだけ見ろよ! その代わりそのくっさい手で触んなよ」
「――んなっ?! ――がはっ」
 そう言うや否や、優珠希ちゃんが下からのぞき込もうとしていた戸塚君の頭を手加減なしで蹴ったのかすごい音をさせながら戸塚君を仰向けにひっくり返して、戸塚君の顔の前で、下着を見やすくするためだろう少し股を開けて、靴のまま戸塚君の顔面を踏みつけるように足を乗せる。
「お前、年上に向かってこんなことして――っ?!」
「うっせーな! 望み通りお前の好きな下着を見せてやってんだろ? 少しは黙れよ」
 そう言いながら、戸塚君の顔の上に置いた足に相当力が入っているように見える。そんな戸塚君の状態を一瞥だけして、もう一度私の方を射るように見てから、
「違う。わたしが聞きたい答えじゃない。そもそも、この状況とこいつの格好、態度を見りゃあ分かんだろ」
 そう言って、泣き顔の蒼ちゃんと、衣服の乱れたままの私と、自分の下にいる戸塚君をあまり表情を変える事無く順番に見る。
 そして、ブラウスのボタンも外され中の肌着まで見えたままになっていた自分の格好に気付く。私が、身支度を整えてスカートもはたいて立ち上がったところで
「もう一回だけ聞く。アンタ、わたしのお兄ちゃんの彼女なのに、このクズの前で何衣服をはだけてんの?」
 言葉はとてもきついけれど、このいきさつをある程度知っているのだろう。その表情はとても優しい。
「私だってこんな人に見せたくないよ。ただ大切な親友を守ろうとしてこうなったの。でも見せてしまったことは悪かったと思う。ごめんなさい」
“女”を意識してしまっている自分にはもう言い訳なんて出来なかった。だって、私自身が優希君以外に見せる事も触られることも嫌なのだから。
「まあ、今日の所は学友の為に中々そこまで出来る人間なんていないから、後はこっちで全部何とかしてやる」
 私の言葉に満足したのか、一つ微笑んでから
「おい、そこのオンナ。お前も男にこびないと生きていけないビッチか?」
 表情を消して蒼ちゃんに向ける。ほぼ初対面の蒼ちゃんには相当きつい言葉に聞こえると思う。
「オイコラ触んなってゆってんだろっ!」
 気付くと優珠希ちゃんの足をなでていた手を、顔を踏んでいる足を軸にもう片方の足で優珠希ちゃんの足を触っていた手を蹴り飛ばし、手が離れたところを空かさず蹴った方の足で手首を踏みつけてしまう。あのままだと戸塚くんの顔の
 骨が割れてしまうんじゃないだろうか
「がはっっ!」
 私がそんな事を思っている間に顔面と手首を抑えて戸塚君を身動き出来なくしてしまう。これで優珠希ちゃんちゃんの全体重が戸塚君の顔面と手首にかかっている事になる。
 いくら優珠希ちゃんが女の子で体重も軽いとはいえ、本当に痛そうだ。今日この現場を見れば優珠希ちゃんの性格を考えれば、当然だけれど、戸塚君に対する対応を見ても分かる通り、相当機嫌も悪そうではある。
「……」
 その間に無言で愛ちゃんも身支度を整えて、一言だけ返す。
「さっきまでは私の彼氏だったから、尽くそうとしてただけだよ」
 恐らくは体中にある痣を衣服を整えている間に見たのだろう。それにさっきの会話も聞こえていたのかもしれない。
 取り繕ったのを見破ったのか、優珠希ちゃんの態度から蒼ちゃんへの興味が失せて行くのがはっきりとわかる。優珠希ちゃん相手にそれでは信頼どころか相手にもしてもらえない。そんな蒼ちゃんをもすでに興味のない表情で見た後、私の衣服の状態も確認もしたところで
「おまえ、さっきからうめき声がうるせーんだよ! 男だったら見せてやってんだからちったぁ我慢して静かにしろや」
 そう言って、手首にかけた足の方をねじり、うるさいと言った口をふさぐために、顔面を踏んづけていた靴をそのまま踵の部分が口に合うように、靴底をずらす。それだけで戸塚君の顔が真っ赤になり、一部血が滲み始めている。これは本当に機嫌が悪そうだ。
「ああっ? わたしの下着だけじゃまだ足りないのかよ! それじゃあただの歩く性犯罪者じゃねーかよ」
 痛みでただうめいているだけだろうに、話を作って文句を言う優珠希ちゃん。もうその姿は圧倒的だった。
 さっきまで私たちは何に諦めそうになっていたのか、必死になっていたのかそう思うほどに。そう考えている間に
「しゃーねーな。最後の土産だよっ」
 優珠希ちゃんはそう言って、戸塚君の顔に唾を吐き、自分の下着を脱ぎ、なんとそのままその場にしゃがみ込み、脱いだ下着を戸塚君の手に握らせ、服を脱がずに器用にブラだけを取り、それを戸塚君のお腹あたりに放り投げてから、もう一度戸塚君の手首と顔面をねじるように踏みつけてから、戸塚君からどいて、横に女の子座りをして
「良いか、こうやって解決するんだよ。今回はわたしがアンタに代わって全部面倒見てやるよ」
 そう言って、戸塚君が顔と下手したら折れているかもしれないパンパンに腫れあがった手首を見て起き上がれない事を確認したのち、思いっきり息を吸って
「きゃーーーーーーっ!助けてーーーーー」
 よく通る、耳をつんざくほどの声量で、悲鳴を上げた。

ーーーーーーーーー原版・本文ーーーーーーーーーここまでーーーーーーーーーー

※この時点ではまだ断金という文字は入れておりません。ただ言葉の意味からして
 断金だと決めておりましたので、初めからタイトルは決まっておりました。
 ただ、これだと断金の交わりが何を意味するのか分からなかったと思いましたので
 優珠希に解説をお願いしました。

※またこの時点では雪野の友達を参加させるのかも迷っていましたので、登場だけ
 させて名前までは付けずに、空白の人として取り扱っています。

※蒼ちゃんの一人称について。何に対しても自信のなかった蒼ちゃんが、断金へと
 至る寸前(本当の意味での直前)の友達から貰った信頼と想いの深さで自信を
 付けた蒼ちゃんが、一人称変更と言う、ある意味一番地味で一番大きな変化を
 遂げています。
[当話の目的その2] [その1はもちろん断金化]むしろその為の170万文字でもありました。(それくらいには、重さのある言葉だと思います)
 ですので蒼ちゃんが自信を持てたのは、その気持ちが繋がったのは愛ちゃんの心が折れた瞬間、
「私じゃ、蒼ちゃんの親友として、支えられなかったのかな……」
 この一言の(この一言に内包する全身全霊の想いを受け取った、その)瞬間です。

 それを如実にするため、集中会話の中身を方向性と共に少しいじり、その内面を可能な限り照らし出す(内面照射ないしは照射)ために大幅に集中会話の量を増やしました。

余談ですが、ここまでのお話で三幕構成とし、1冊の本として完結〈了〉とするならば、

【断金へと至る道】

本書のタイトルはこうなっていたと思います。内容と話の区切りからすると出来るんですよね……ただ、このお話はあくまで、起承転結の四幕構成です。ですからお話はここではまだ終わりません。【結】を含めたメインはもう少し後に続きます。もっと奥深くに伏線を走らせております。
 ですのでタイトルはこれじゃなく、表題のタイトルでないと駄目なんですよね。

これにて本当に【転】までの全ての文字を出し切りました
(メモ・全集約伏線・継続2本は除く)
それでは、最後【結】でまた会いましょう☆
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